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社長に立候補する

「へぇ、このお店に予約なしで入れるのですか?」と驚くことがあった。人気店はいつまでも人気店の座にいられるとは限らないのだ。
予約必須、大行列の人気レストランだって、同じことだけをくり返していれば、徐々に行列が短くなり、ついには行列も予約も不要のお店になる。
諸行無常とはよく言ったもので、絶えざる革新、つまりイノベーションが必要だし、それだけで追いつかなくなれば、破壊だって必要だ。

創業タイプの経営者は0から1を生み出すことに生き甲斐を感じる人が多い。成功確率が低いと聞くと、それだけでゾクゾクするのだ。

そうした勝負師、ギャンブラーにとって、1を2に改善する行為、つまりイノベーションはあまり好きな仕事ではない。
勝負師にとっての優先順位は、やっぱり0から1を生むことなのだ。

そうした経営者が、人がいないという理由で自らが日常業務のオペレーター的な仕事をやりだすと、それだけでテンションが下がりはじめる。
たとえ業績が好調でも、本人すら気づかぬうちにテンションが徐々に下がり、やがては必要最小限のことしかやらない社長になっていく。
人間に空気や水が必要なように、そうした社長には、冒険や挑戦が必要なのだ。

そういえば昨夜、「武沢さん、県知事をやってくれないか」と頼まれる夢をみた。
なぜこんな夢を見たのかは分からないが、夢のなかで私はどうしても気乗りせず、丁重に辞退した。

知事に限らず、政治は、「自分がやりたい」と立候補した人の中から投票で選ぶべきであって、学級委員長みたく、やる気のない人にまで押しつけるものではない。

立候補とは、「自分にはビジョンがある。一生懸命やるから、どうか自分に任せてほしい」とモティベーションの高さを有権者にアピールするものだ。

立候補制度が必要なのは、政治家だけではないはず。
社長の座も、やる気がある人が立候補して投票で選ぶものである。

本来、株主が投票で社長を選ぶものだが、たまたまオーナー社長である場合は、株主総会のたびに株主の自分が、社長の自分を再選しているだけのことだ。

その自動的な再選をいったんやめよう。

社長は誰がふさわしいかを真剣に考えるのだ。それが株主の責任と権利である。
そして、自分が最も社長にふさわしいと思えるまで、経営マニフェストを練り直すのだ。

もし納得できるマニフェストが作れなかったら、作ってくれそうな人に社長の座を任せ、あなたは、オーナー兼社員になろう。
以前、「代表取締役課長」という名刺を頂戴したことがあるが、おそらくそうした主旨でのことだろう。

また、オーナー一族だからといって、その子女に経営の甘えがあってはならない。
社長である父親から言われて自分に社長の座が回ってきたとか、伴侶が急逝して悲しむまもなく自分に社長のおはちがまわってきたような場合でも、しっかり経営マニフェストを作って会社経営しよう。

最初は受け身で社長に就任したとしても、いったん引き受けた以上は、立候補者と同じく、高いモティベーションで社長の大任に取り組もう。

そこで、あなたにお尋ねしたい。

「今の社長の座に再度、立候補したいですか?」と。

同様に、あなたの社員に聞いてほしい。

「いつか社長(役員)をやりたいですか?」
「いつか管理職になりたいですか?」
と。

多くの社員が「はい!」と手を挙げる会社は素晴らしい。
万一、誰ひとり「はい!」と答えてくれないようならば、社長であるあなたのマニフェストの内容を吟味し直そう。