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続・「胸キュン」の舞台裏

さて、『「胸キュン」で100億円』(上阪 徹 著、KADOKAWA)
昨日の続き。

「恋愛ゲーム」だけで東証一部上場を果たした株式会社ボルテージは、映画『プリティ・ウーマン』を徹底分析したという。同社の津谷社長自身がアメリカで映画を学んでいたので、その経験と知識が恋愛ゲーム作りに活かされているのだ。

『プリティ・ウーマン』では、自由奔放な娼婦とウォール街のエリートが出逢い、互いに惹かれあい、価値観の違いで衝突しながらも、やがてクライマックスへ駆け上がる。そうしたストーリーの面白さは誰もが認めるところ。ボルテージでは、その魅力を論理的かつ視覚的に整理し、再現可能なフォーマットにすることで誰もが面白い物語を作れるようにした。

つまり、素晴らしいアイデアを誰かが思いつくことを期待するのではなく、誰もが一定以上のクォリティの企画が作れるようにした。それがボルテージ流の「感動恋愛物語生産システム」とでもいうべきマニュアルでる。個人の天才的ひらめきに依存していては、会社として安定成長できないからである。

そうしたボルテージのマニュアルに興味がある方はこの本を入手しよう。企業秘密に近いような書式がたくさん紹介されている。「なに、この程度ではまだ企業秘密とはいえないぞ」という同社の自信がうかがえるようだ。

『「胸キュン」で100億円』(上阪 徹 著、KADOKAWA)、
http://e-comon.co.jp/pv.php?lid=4204

マニュアルにそってソフト開発が進むと、ついつい、作り手である社員の仕事が単調になって飽きてしまうのでは、という危惧がある。特に若いスタッフが多い会社なので、延々とパソコンに向かう作業が続くと疲労感もただならないはず。

そこで、ボルテージではオフィス環境を心地よいものにするための取り組みに力を入れてきている。6年間に7回も引っ越すなど、業績が上向くたびに快適なオフィスへ移転してきた。ビル選びやオフィスの内装も大切だが、周辺ロケーションも非常に重視しており、今は恵比寿にオフィスがある。

また社員二人に一人のアシスタントが付く。しかもアシスタントの大半が20代の女性。企画を生み出せる社員にこまごました雑務までさせると生産性もモティベーションも落ちるからアシスタント制を敷いている。それが社内の活気につながっている面もあるようだ。

個人による「成果発表会」「プレゼン」をたびたび開くことも同社の文化になっている。日ごろ裏方に周りがちな社員全員に何らかの発表をさせる機会を作っており、それが空気の活性化につながっているともいう。

こうしてみてくると、いかにも東大工学部のエリートがマーケティングもマネジメントも工学的に捉えて設計してきたことがわかる。しかもその実験は順調に成果をあげて東証一部上場まできた。ITベンチャーの、しかもスマホ向け恋愛アプリの会社と聞くとどこか浮ついた企業イメージを抱きがち。しかしこの会社のそうした工夫に富んだ経営を見ているとITベンチャーに対するイメージを更新せねばならないことを教えられた気がする。

『「胸キュン」で100億円』(上阪 徹 著、KADOKAWA)、
http://e-comon.co.jp/pv.php?lid=4204