プロ野球もオープン戦に突入し、徐々にスポーツニュース番組も熱くなる。今年の注目点のひとつは、星野監督率いる阪神タイガースがどこまで変われるか、という点だろう。野村前監督を迎え入れたときにも、「勇将のもと弱卒なし」と地元関西は大歓迎した。その期待が一度裏切られているだけに、星野氏も火中に栗を拾う覚悟だろう。
さて企業経営において、一度おかしくなった企業が力強くよみがえり、新しい成長路線に乗るのに何年かかるだろうか。タイガースというチームそのものは、誰がみても弱いチームになってしまった。企業でいえば、組織がバラバラでなかなか利益体質に戻れないというところか。そうした組織に徒手空拳で乗り込んできた星野氏は、再建を依頼されたプロ経営者と同じ立場なのである。ましてや今までライバルチームにいただけにカルロス・ゴーン氏と極めて似た状況にあるとも言える。
企業であれば、大胆なリストラ策や他社との提携などの手段もあるがプロ野球監督にそうした選択肢はない。あるのは、手持ちの人材をフルに有効活用して勝ち星を重ねることだけだ。
今、私の手元には「ビジョナリーカンパニー2」(日経BP社刊)があるが、その中に、偉大な企業に至るプロセスには準備段階と突破段階があるとして、次のような例を紹介している。
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1960年代から70年代にかけてバスケットボールで圧倒的な力を誇ったUCLAブルーインズというチームがある。このチームの伝説の名コーチ、ジョン・ウッデンのもと全米大学選手権で12年間に10回優勝し、あるときには61連勝をも記録している。しかし、ウッデンがブルーンズのコーチになって、全米大学選手権で初優勝するまでに何年かかったかご存じだろうか。答えは15年である。1948年から63年まで、ウッデンは地味な努力を続け、64年の初優勝にこぎつけた。この15年間、チームの基礎を築き、優秀な高校生を発掘する組織を作り、一貫した考え方を実行し、フルコートプレスのスタイルに磨きをかけていった。当初は物静かで穏やかに話すコーチにもブルーインズにも誰もそれほど注目していなかったが、あるとき突破段階に達し、10年以上にわたって全米の強豪をつぎつぎに打ち破るようになった。
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この例では、15年の準備期間がかかることもあり得るとして紹介しているが、このあとに、企業の実例も紹介している。準備段階から突破段階に至るまでに要する年数は企業によってマチマチだ。だが、長い場合で10年、短い企業の場合で2年となっている。
大切なことは所用年数の長短ではない。準備段階から突破段階に至るに必要なプロセスをきっちりと踏むことである。そのプロセスとは何かは同著にゆだねるとして、星野阪神が個人的カリスマによって率いられるチームになってはいけない。組織として常勝チームにする、そのためのDNAをインストールすることが星野監督の仕事のはずだ。その言動に今後も注目が集まる。