「経営って何だか僕には分からないんです!」と水口専務(43才)は大声で私に訴えた。
「専務が本気になれない理由とはそんな事なんですか?」と私は反論した。ことの経緯はこうだ。
実父にあたる水口社長(65才)の依頼で、5カ年の経営ビジョンを専務とサシで作って欲しいということだった。3年以内に経営バトンタッチを考えておられるという。お引き受けした私は、何度か専務とのミーティングを重ねた。
そんなある日、とうとう私は専務に対して我慢の限界を超えるときがきたのだ。
「専務、はっきり申し上げます。専務が次の社長を引き受けられたら、御社に明日はありません。」
現象面では、
・宿題が出来ない
「○○に関して基本方針を書いてメールして下さい」と申し上げても守れない。言葉ではいえるが文字にするのは苦手だという。
・部下から提出される目標や行動計画書に対してすべて否定的懐疑的なコメントしか言えない。
・私が申し上げた意見や提案に対しても、問題や障害の部分にしか目がゆかない。
などの言動が目立った。
この会社「水口産業株式会社」は、熾烈な競争環境におかれ、徐々にシェアが低下して、ついに昨年は創業以来初の赤字転落をした。
「専務、もう一度申し上げます。今のままの専務では部下は誰も付いてきません。むしろあなたがいなくなることが最高の経営戦略かも知れません。理由を申し上げましょう。社内であなた一人だけ競争原理が働いていないのです。」
このように申し上げたところ、冒頭の言葉が返ってきた。
厳しい競争環境におかれ、ライバルに打ち勝つために日夜しのぎを削ってお互いが切磋琢磨する。そうした競争環境そのものが、自由主義・資本主義のダイナミックさを生みだしているひとつの源だと思う。そこには絶えずイノベーション(改革・革新)が必要とされる。
個人でも企業でも、そうした競争環境におかれていること自体は恵まれていると言って良いのだ。生き残り、そして勝つことを真剣に考えて勉強し、行動する。環境は厳しくはあってもそれが自然の摂理にかなっている。
水口専務は、経営を勉強するために東京のビジネススクールにも2年間通い、地元でも経営者団体に所属して熱心に活動をされている。しかし、いまだに自分の言葉で「経営とは何か」を答えられないという理由から、不完全燃焼の日々を過ごしているという。私は、それは単なる言い逃れに過ぎないのではないかと思う。真の理由は、専務自身が長年にわたって競争環境に置かれていないことからくる、当事者意識と危機意識の欠如にあると思う。