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思い出のA社長

「あなたね、そんなデキのわるい社員みたいな発言をしていて、よく社長がつとまっていられますね」と皆の前で言ってしまった。

今思えば、ひどいこと言っちゃったなぁと思うが、そう言わせたのは彼だ。
地域が特定されるのでいつの出来事かは伏せておくが、比較的最近の非凡会での出来事だ。

ことの発端は私が「経営マニフェストの作り方」の講演を行ったあとの質疑応答で、A社長(55才位)が発したこんな意見。

「武沢さん、きょうび5ヵ年計画を作ったって当たらないですよ」

彼曰く、いままで何度も中長期計画づくりを行ってきたが、一度もその通りになったことがないという。だから、最近は単年度計画しか作らなくなったとか。

それはよくある意見でもあるので、私も冷静にこう申し上げた。

「Aさん、5ヵ年計画を作ってもその通りにならないから作らないという考え方で良いのでしょうか。じゃあ3ヵ年なら良いのですか?単年度ならうまくいくのですか?計画を作ってもその通りにならなかったのはなぜなのかをよく考え、そこにメスを入れましょうよ。そして、計画と実績との誤差を小さくしていく取り組みが経営そのものじゃないですか。計画は予想じゃないのですから」と。

すると、別の経営者B社長からA社長に対してこんな助言もでた。

「A社長は5ヵ年を固定の5ヵ年で捉えていませんか?うちの会社では毎年毎年その年を初年度にして計画をローリングしています。そうすれば、当たる・当たらないという見方はでてこないと思うのですが」

私もB社長の考えを支持する立場で意見を申し上げたところ、信じられないセリフがA社長から飛び出した。

「しょせん、いくら計画作ったところで、その通りになりませんがな」

まだそんなことを言っている。もっとも聞きたくないセリフを社長職にある立場の人から聞いてしまった私は、プツンと切れた。

「じゃぁ、どうしたいんですか」

次いで出たのが冒頭の言葉。衆人の前でそんなことを言われたA社長の顔は、みるみる顔が真っ赤っかになっていく。炎がでそうだ。
こっちだって、こんな発言したくない。する以上は真剣だ。怒りに声が震えそうで、顔が真っ青になっていく。

両者、しばしにらみ合ったまま。
30秒後、私は感情を抑制してこう続けた。

経営力を高めましょう。経営力には、計画立案力と遂行力の両面があるが、ひょっとしたらAさんの計画立案力に改善の余地があるかもしれない。あるいは、遂行力の方に改善の余地があるのかもしれないし、両方かもしれない。きのうまでの出来事を教訓にして明日につなげる経営をされれば、昨日までできなかったことができるようになる。それが社長の成長だし、会社の成長だし、成長している会社が業績も成長する。

その直後、希望者だけで二次会会場へ。

気分を害したはずのA社長は、おそらく二次会には行かないと私は思っていたが、二次会に向かう道すがら、居酒屋目指して歩く私の横で自社の現状を話しているA社長がおられた。

彼は酒が飲みたかったから二次会に来たのではない。こんな気まずい酒はないはずだから。
彼は逃げなかった。話しがしたかった、話しが聞きたかったのだと思う。

今も切に想う、「がんばれA社長!」と。