難航する労働組合との交渉。
会社が沈没しかかっているというのに、「協力できない」と労組側。
着任して間がない新社長(53才)は、席につくなり、こう宣告した。
「協力なんかできないと言うんだったら、お前らの頭を吹っ飛ばしてやる。明日の朝、倒産を宣言するからな。全員失業するんだぞ!」
新社長の名は、リー・アイアコッカ(Lee Iacocca)。
1924年生まれ、彼が60才の還暦の年に書いた自叙伝「Iacocca:An_Aut-obiography」(日本語題:「アイアコッカ?わが闘魂の経営」ダイヤモンド社刊)は、世界で700万部を売る大ベストセラーになり、当時30才くらいだった私もむさぼり読んだ記憶がある。
珍しいIacocca(アイアコッカ)の正しい綴りを覚えるため、クライスラー社の社員たちは次のように記憶した。
「I Am Chairman Of Chrysler Corporation Always. (私はいつでもクライスラー社の会長である)」。
1977年(53才)にクライスラーの社長に就任した彼は、瀕死の状態にあった同社を「野戦病院の外科医のように、思い切った手術で救えるものを救うしかない」とメスで手際よく執刀し続けた。
そしてアイアコッカとクライスラーは目ざましい実績をあげ、経営再建劇の好事例にもなりかけた。
だが、
個人的カリスマ指導者によって経営が良くなった企業は、その指導者が去った後、沈んでいく。
いや、アイアコッカとクライスラーの場合は、さらに極端だ。
彼の15年間の社長在任中の前半は、素晴らしい実績を残しているが、後半は平均以下の企業になり下がり、退任間近になると、またしても倒産の危機に瀕しているのだ。
彼には野戦病院の外科部長が似合っていて、近代的な総合病院の理事長には適任ではなかったのだろう。
このような話を紹介したあとの一般的な結論は、こうなる。
「会社は自らの成長ステージに応じたリーダーを必要とする。だから、タイミング良く社長を切り替えていこう」
だが、私の意見は異なる。
そもそも中小企業にはそんなにタイミング良く社長を任せられるほど豊穣な人材はいない。しかも、会社の成長ステージそのものだって、極端な場合一年ごとにコロコロ変わる。
そこが「野戦病院」なのか、「大都市の総合病院」なのか、はたまた「田舎の町医者」なのかは混沌としていてわからない。
だったら何でもやれる経営者でなければ務まらないのが中小企業のリーダーだ。
しかも、そのリーダーシップは、外科的アプローチではなく、地に足つけた内科的・東洋医学的アプローチ中心に体質から変えていく手法が求められる。
経営者としての手腕の高めよう。だが、それはカリスマ指導者になることを目指すのではなく、地味で堅実で実務的な経営者を目指してほしいと私は思う。