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天ぷら屋の看板から一本の原稿が生まれる

最近は毎日一万歩あるくように心がけている。特に自宅から会社までの片道30分は歩数稼ぎに最高で、往復の徒歩にプラスして昼のウォーキングを20分ほど加えれば、ほぼ確実に一万歩を超える。もちろんそれだけで減量できるわけではないが、コンディション維持には大いに役立っている。

それにも増して往復1時間歩くことで発想が豊かになる。新しいアイデアがひらめいたり、「がんばれ!社長」のネタなどもウィーキング中に思いつくことが多い。たとえばこんな具合。

会社への道中に新しい天ぷら屋が出来た。店先の看板には「尾張前のネタを上質な油で揚げた・・・」とある。私はその場で iPhoneを取りだし聞き慣れない「尾張前」ということばを調べてみた。「江戸前」は有名だが、「尾張前」という言葉があるのだろうか。

案の定ネットでは「尾張前」ということばはどこにも使われた形跡がない。天ぷら屋の主人の造語であろう。分かりづらい「尾張前」ではなく、普通に「三河湾の新鮮なネタを・・・」と表現した方がイメージが伝わりやすいのではないだろうか。

ところで江戸前(えどまえ)の寿司などというときの「江戸前」には狭義と広義のふたつの意味がある。狭義の方では、「江戸の前方」、つまり「江戸の前面にある海」のことを言い、江戸の近海で獲れる魚介類を総称して「江戸前」と呼ぶようになった。広義では、握りずしが江戸の発祥であることから京阪神の「上方のすし」に対抗してにぎり寿司全般を「江戸風のすし」というようになり、ひいては、食だけでなく、江戸っ子の気質や流儀全般を幅広く総称して「江戸前」と呼ぶこともある。

天ぷらの看板を見てから私の頭は活気づいてきた。「江戸の前だから江戸前とはうまいことを言ったものだ。だったら、○○前ということばの中には同じような主旨から作られた言葉があるかもしれない。たとえば【男前】【腕前】【板前】【出前】【落とし前】【当たり前】などの語源は何だろう」などと発想が広がる。そこで siriを呼び出し「リマインダーに追加。当たり前、男前の語源を調べる」と命じておき、会社につくと同時にネットで調べものをする。

そこで面白いネタが見つかれば、天ぷら屋の看板から一本の原稿が書けるようになる。もし面白いネタが見つからなかったとしても、豆知識は確実に増えていく。こうした自問自答式のやりかたでいままで何本の原稿を書いてきただろうか。

これもウォーキングのご褒美といえるだろう。