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一流の聴き方

ある居酒屋に自然な笑顔が美しい女性スタッフがいた。

お店の方針か、あるいは店長の指導のたまものか、とも思ったが他のスタッフはみな愛想がない。

彼女に生ビールを頼むとき、「あなたの笑顔、すばらしいですね」と言ってみた。すると、
「はい、笑顔だけは絶やさないようにしようと思っていますから」と。

「へぇ、立派ですね。ふだんもそうしているの?」
「はい、高校生のころにそう思ってから、ずっと心がけています」

笑顔でいられないことが多いなか、いつも笑顔でいられる人ってすごいと思う。

「一流の人は明るい」

と平澤興(ひらさわこう)元京都大学総長が語っておられるが、偉ぶった顔をしたり、しぶい表情を作ったりして自尊心を見せたがる大人が世間では多い。だが、それでは本物の人物ではないようだ。

私は講演やセミナーで演壇に立つと、まっさきに会場を見渡す。聴衆のなかの応援団をさがす。
微笑みがあって、うなずきながら聴いてくれる人をさがす。その人に話しかけるように話していくと、比較的落ち着いて話し始めることができる。そういう人がいないと固さが続く。

反対に、眉間にしわをよせ、けわしい表情で腕組みでもして私の話を聴いているような人が多い会場だと、最後まで乗りきれずに講演が終わってしまうことがある。
まるで講師を裁きにきたような態度をみせるひとがいると、気になってしようがない。

もちろん、講師の力量いかんで聴衆の姿勢はかえられるのかもしれないが、今日の主題は「聴く姿勢」。

先の平澤氏は、「年をとって、あまりかしこそうでは一人前ではない。相手にも自分にも緊張を与えるようでは、まだまだ窮屈である」とも述べている。

真剣に心の底から相手の話を聴くという姿勢をみせよう。聴く者としてふさわしい正しい姿勢で聴く。よそ見をしない。

できれば、居酒屋の女性スタッフのような自然な笑顔を話し手に送ってみよう。相手は調子にのって、気持ちよく本来の力を出し切ってくれるはずだ。

一流の聴き方をもった人は相手をその気にさせる。