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IO比

某日、某所。

青年会議所のある経営者が講演会のあと私の近くまで来て開口一番、「先生、会社経営とは人づくりに尽きるとボクは思います」と言う。

私が講演で「会社経営とは顧客創造を通した理念の実現」と申し上げたことに対する彼の回答がそれなのだろう。

「人づくり」が彼の経営理念らしく、それ自体はたいへん素晴らしいことだが、そうした信念をもつにいたるには、いかなる背景があったのかが問われる。

知識や情報に関するインプットとアウトプットの比のことを一般的にIO(アイオー)比という。

たとえば “ワンセグ放送の楽しみ方” に関する本を書こうと思ったあなたは、いきなり原稿を書く前に、まず、ワンセグに関するあらゆる情報を仕入れるところから準備を始めるだろう。

何かの資料や本を集め、読み、実際に企業訪問したり、研究者に会いに行って話を聞くだろう。ネットで検索し、情報を集めるだろう。自分自身でも実際にワンセグ放送を利用し、全国の利用者にも意見を聞きに行くかもしれない。

そうした仕入れ作業と仕込み作業が充分に行われ、そのエッセンスを体系的に抽出された本に仕上がれば、きっと読者に評価される濃い一冊になるに違いない。

その逆に、一冊の本しか読まずに一冊の本を書いたとしたらIO比は1対1になるわけで、これでは情報の横流しをしているだけの盗作に近い作品になってしまう。

ではIO比はどれくらいが望ましいのだろうか。

評論家の立花隆氏は100対1ぐらいのIO比がないとちゃんとしたものが書けない、と言っている。
100対1とは言っても、サイエンスの場合でいうと論文を100読んでから一冊の本を書くという安易な姿勢ではない。

その分野の世界的な第一人者に何時間も何日も話を聞きに行き、その時の速記録がもしあれば膨大な量になり、なおかつ日本に帰ってからも関連書籍を何冊も読みこんでそのエキスを抽出し、加工編集するわけだ。

氏の近著『精神と物質』(文藝春秋)では、読む+聴くをあわせて、IO比は1000対1くらいの比率になっているのではないかと氏は語る。
それだけのIO比を保ちながらも、立花氏はこれまで80冊近い著作を著してきているのだから「知の巨匠」と称されるゆえんだろう。

もちろん本にも様々なジャンルがあるので、一概にIO比だけとはいえないが、重要な評価尺度のひとつであることに変わりない。

冒頭の彼が「会社経営とは人づくりに尽きる」と語る背景にどの程度のIO比があるかだ。

同様に、
あなたの考えや思想・哲学はいかなるIO比で作られたものか。
あなたの会社の製品・サービスはいかなるIO比で提供されているか。
あなたの会社のWEBサイトやメルマガ・ブログのIO比はどうか。

ひとつの点検基準としてIO比というものを知っておこう。