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素直にぶつかることに遠慮はいらない

30歳から経理財務畑に進み、それから25年ずっとその道を歩んできた。そんな A 氏が昨年社長に就任した。先代社長をずっと脇から支えてきた功績が認められての器用である。謙虚な人柄に勉強熱心なところも評価された理由だろう。

ところが面白くないのは技術や営業部門の担当役員である。A 氏より年齢も社歴も少し古い。先代社長がいない場面になると露骨に「技術(営業)のことをご存知ないようですな」などと嫌味を言う。A 社長が経営会議で改革案を述べると、「はばかりながら、いかにも技術(営業)の現場をご存知ない方が考えそうな荒唐無稽の空論です、としか申し上げようがない」などと言う。ときには、現場の専門用語を駆使して社長を煙に巻くようなこともした。

最初の一ヶ月はやりにくくてしようがなかったが、ある日の経営会議の冒頭で A 社長は意を決してこう言った。

「この経営会議参加者のうち半数は私よりも社歴が長く、年齢も私より上の先輩です」 列席者は社長が何を言いだすのかと注目した。

「若輩者の私が社長に就任したことに対してうれしくない気持ちでおられるのは充分理解できます。しかし取締役会においてこの人事が可決され、株主総会で承認されたものであるかぎり、私は身命を賭してこの責任を全うするつもりです。その覚悟をまず皆様にあらためて申し述べます」 A社長は深々と頭を下げた。「そんな私が至らない部分を強固にサポートしていただくのが各部門の担当役員である皆様です。その役割を全うしていただくことが会社を預かる皆様の責務です」 列席者の顔をひとりずつ順に見ていった。

「仮に担当役員がそうした責務を果たそうとしなかったり、果たすことができなかったり、傍観者をお決めになるようなことがあれば、この会議への出席には及びません。ご自分が置かれている立場をよくよくお考えになったうえで、今後の発言や態度をご自身の責任においてお決め下さるようお願いいたします」

非協力的な役員は更迭する、という宣言だった。

かつて松下幸之助氏が大学生を採用しはじめたときのこと。入社したばかりの若者が大学で学んできた専門用語を駆使して意見を述べた。それをさえぎって、松下氏はこう言い放った。「あんたの話は難しくて何がなんだかさっぱりわからん。難しいことを私にもわかるように話すのが大学出のあんたの役目やろう」

社長はもちろん、部門を預かるリーダーにもこうした素直な態度が欠かせない。

今日、私は渋谷のダイヤモンド社で対談することになっている。対談のお相手はリアライズの青木毅さん。ダイヤモンド社さんがくれた「対談主旨書」にはこんな質問が投げかけられていた。これについて何か話さねばならない。

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1.いまの営業マンに必要なこととは?
2.社長に営業力がなくて現場の営業に意見ができないのはなぜか?
3.社長に営業力はあるが、属人的なもので、現場が育たないのはなぜか?
4.企業における営業の役割とは?
5.今後、求められる営業像とは?
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知りたいことを知ることに遠慮は要らない。それは営業においても同様である。相手がなにを望んでおられ、なにに困っているのかをライバルよりたくさん聞き出すことができた人が勝つ。いかに上手に聞き出すかの技術が求められるわけだ。また、相手がなにかを知らないことに対してそれをバカにしてはならない。見下すなんて問題外で、知らない人は知っている人の一瞬の表情を見抜き、つき合うべき人か否かを決めていることを知っておかねばならない。