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周囲に惑わされる社長

社長業も長年やってこられる社長としての決断や身の処し方に一本ピシッと筋が通る。だが就任間もないうちは、使われの身のクセが抜けないのか、周囲にお伺いをたてるような意志決定の仕方をしてしまう。私のところにもごく稀に、次のようなお門違いな相談を持ちかけてくる人がいる。

「武沢さんのセミナーに参加したい。しかし東京にしろ名古屋にしろ一泊する必要があることや、セミナーテーマに関しても大蔵省である妻がウンと言ってくれません。今度会社にお電話させていただくので、妻を説得してやっていただけませんか?」

あまりに情けないメールなので無視しようかとも思ったが、レスを返すことにした。「ここに来るまではあなたの責任です。ここに来てからが私の責任です」と。その後二年ぐらいたつが、結局その人は一度も私のセミナーにお越しになっていない。

こんな電話をいただいたこともある。「経営計画書をつくるために武沢さんの講座に参加したいが、妻の父親(先代社長)が会社をあけることを良しとしない。こんなときにはどうやって口説けばいいか、知恵を授けてくれませんか?」

このときもまったく同じ返答をした。「ここに来るまではあなたの責任です。ここに来てからが私の責任で
す」その後、その人は講座に参加し立派な経営計画書をつくられた。

こんなこともある。「幹部からのウケがイマイチなので今期は経営計画書づくりを止めようと思います」

それを聞いたときも私は即答でこう申し上げた。「社長、その決定は間違ってますよ。経営計画書が悪いのではなく、御社の現状に機能しないような計画の中味だったわけで、今度は機能するような計画書に変えてみせると考えてはどうでしょう」

その社長は来月の発表会に向けて計画書を現在、刷新中である。

社員の声、家族の声はお客の声と同じくらい重要である。だから積極的に耳を傾けるべき対象である。かといって、周囲の声に従って生きなさいというわけではない。社員や家族を愛するがために辛い決断をしなければならないことがある。泣いて馬謖を斬らねばならないときだってある。それができるかどうかが社長としてひと皮向けるかどうかの分岐点だ。

今日ご紹介したのはいずれも実在の社長である。皆、迷っておられる。どんなベテラン社長になっても迷いはなくならない。そして迷いの本質は自分自身の迷いなのである。幹部や父や妻の名を借りてはいるが、実は自分の迷いなのである。それを他人のせいにせず、自分が迷っている原因はどこなのかを突きとめ、それを自分で解決し決断する主体的な生き方をしていただきたい。社長さえ迷っていなければ、仮にどんなヘンテコな意志決定だったとしても、その主張は受け入れられる。むしろ周囲が、笑顔と拍手で賛成してくれるような決定は間違っている可能性が高い。

周囲のリアクションを見ながら経営するのではなく、顧客や市場がくれた評価表(業績)を見つつ、絶えず進化つづける決断の社長でありたい。