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サンタにまつわる、あるお父さんの物語

メリーXmas!

小学 3年生になるとクラスの中に「サンタがいないとお父さんから聞いた」という同級生があらわれた。
すぐに先生に確認したら、無粋ながら先生もそれを認めた。

それまで 100%サンタを信じていた子どもはその日の夜、父に聞いた。
「サンタはいないの?」

父は息子に聞き返した。

「○○君はどう思うの?」
「僕はいると思うんだ」
「どうして」
「だってお父さんもお母さんも、ちゃんと布団に入って寝てたのを見たもの。そのときには枕元にプレゼントが置いてなかった。でも朝起きるとあったんだ」
「じゃあやっぱりいるんだよ」
「でも大輔君はビックカメラでお母さんにゲームを買ってもらったと言ってたけどね」
「サンタさんを疑う子の家には本当に行かなくなっちゃうのかもね」
「わかった。僕は信じるよ」

二年たち、その息子が小学 5年生になった。

「バイオハザード(ゲーム)がいい」とさかんに言う。人気のソフトらしく売り切れる危険性がある。12月中旬にそのゲームを確保し安堵していた父だが、Xmas 直前になって息子が「やっぱり僕はレゴがいい」と言いだした。

あわてた父は取り乱し、
「いや、今さらレゴはないでしょ!」
と威圧的に言い放った。「しまった!」と口をつぐんだが、その様子みて息子は何かを悟ったようだ。父は子どものトラップに引っかかった。

それ以降、息子は 12月に入ると暗示的に「黒いコードバンの長財布」「29インチのデニム」「テンピュールの枕」など、実用的なものしか(サンタさんに)リクエストしなくなった。

それでも毎年この日の夜になると父はけなげに深夜に目を覚ます。なぜなら、子どものころの思い出を大切にしているからだ。父が子どものころ、Xmasの朝、サンタさんにもらったプレゼント箱を夢中で開封した。そのなかに欲しかった銀玉鉄砲が入っていたときの興奮を今も思い出す。

「今さらレゴはないでしょ」でドン引きした子どももすでに二十歳を超えた。まだサンタの存在に一縷(いちる)の望みをもっているはずだ。親として最高のパフォーマンスを発揮せねばならない。
それに、サンタにだって意地があるところをみせつけたい。言われたものをひょいひょいとプレゼントしているだけでは御用聞きみたいじゃないか。今年はあえて子どものリクエストを無視し、「ボクは君にこれをプレゼントしたいんだ」というものを天国の倉庫から探してこねばならない。それでこそサンタだ。

25日の朝、その結果が吉と出るか凶と出るか。どちらにしたって、それでこそプレゼントのもつ醍醐味がある。指定されたものが届くだけだったら双方に感動がない。

実は、そんな父のもとにも毎日のようにサンタが来ている。人間の格好をしているので気づかないが、間違いなくサンタが「君はボクの分身だから、そのお礼だよ」といろんなプレゼントをしてくれる。父はそれがサンタの粋な計らいであることにまったく気づいていない。それどころか、今年も無事に勤めを終えた安心感からか、サンタのコスプレをしたご婦人がいるナイトパブに出没しては大はしゃぎするのだった。

(これはフィクションです)