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時計を作る名人

読者の方からこんなメールが届いた。

・・・武沢さん、こんにちは。いつもメルマガ配信ありがとうございます。ところで今日のメルマガの内容について理解できなかった箇所があるのですが、「時刻を告げる達人になるよりは、優れた時計を作る名人になれ」というのがどのような意味なのか、何となくは分かるのですが実例とかがございましたらご披露ねがえませんか。
・・・
という内容だった。

どんな例をご紹介すれば分かりやすいのか、しばし考えていたら、先週末に行った居酒屋のことを思い出した。

「夕食をご一緒にいかが」というお誘いだったのだが、あいにく先約があったため辞退したところ、「ではせめて、4時半から始まる朝礼だけでも見学を」と誘われたのだ。

行ってみると、店内には「日本一」とか「DREAM」、「すごい仲間たち」など、力がこもった文字による手書きポスターがところ狭しと張ってある。この標語を見ただけで、すでにただならぬ雰囲気が伝わってきた。

だが私が本当に驚くことになるのはそれからだった。

ちょうど定刻になった。10名のスタッフ全員が客席に座り、店長とおぼしき20代の女性が進行役をつとめる。スタッフが勢揃いしたこの段階ですでにお店のスゴサが分かった。
全員が店長の顔に熱い視線を集め、その発言をひとことも逃すまいと聞き入り、高速でメモもとっているのだ。
店長が「何か連絡事項はありますか?」と聞くと、それぞれの担当者からバッと手があがる。

「デザートはこれがウリなので積極的にアピールしてほしい」とか
「○○の魚は数量が少ないので、今日は◎◎を中心におすすめして下さい」などだ。

次に店長が、昨日お客さんに褒められたことや苦情を言われたことをそのまま全員に伝える。
そのことに対してどう思うか?と皆に水を向けると、瞬時に全員から手があがる。
「はい、ゆうこちゃん」
「はい。ありがとうございます。私はそのお客様が苦情をおっしゃる気持ちがよく分かります。正直いって自分たちが毎日全力を出し切っていると思っているのは勝手に自分が自己満足でそう思っているだけであって、お客様から見ればプロのレベルになってないんだと教えられる思いがしました。瞬間瞬間の仕事ぶりのなかに勉強のネタがひそんでいると思うので、満足したりすれば気がぬけて、そのネタが発見できないので、気を抜かずに今日もベストを尽くそうと思います。以上です!」
「ゆうこちゃん、ありがとう。たしかにあなたの言うとおり・・・」
と店長が寸評を加える。
「ほかにありますか? はい、さとう君」
「はい、ありがとうございます。僕はそのお客様の気持ちが・・・
などと進んでいく。そのやりとりのレベルが20才代前半の若者同士のものとは思えないほど高度なのだ。

次に顧客サービスに関する著書の輪読だ。
一人1ページずつ、数人で輪読するのだが、ここでも読みたい人が立候補し、当てられた人は嬉しそうにする。当てられなかった人は悔しそうだ。元気よく朗読がおわると、その箇所の感想を言いあう。

そのような感じで最後はお店の標語を全員で大声で唱和し、30分丁度の朝礼を終える。見ている我々までぐったりするほど力が入った朝礼で、終わったとき客席から拍手がわき起こった。
この本気朝礼は毎日行われているといい、希望者があればお客様にも公開しているという。

この朝礼に社長はいない。社長が朝礼に加わっていたら、かえって全員参加の朝礼にはならなかったことだろう。だが、社長は裏にいた。
バックヤードで仕込みをしていたのだ。当然、材料を仕込みながらも朝礼の雰囲気は充分に伝わってくる。

社長が引っ張るのではない。それでは、時刻を告げる達人止まりだ。
「優れた時計を作る」とは、こうした朝礼の仕組みを作ることもその一例であり、その仕組みを理解し率先できるキーパースンを育成することでもある。

それにしてもこの居酒屋(名古屋市)、料理を味わってみたい。朝礼見学だけではもったいない。