仕事の効率を高めたい

建設会社「Y」の予算編成の風景

建設会社「Y」が 10月に前期を終えた。そこで「Y」では、客先別の売上高と粗利益高、粗利益率を集計した。集計表には、売上高の多い順に 1番から 50番まで並んでいる。項目は、会社名とそれぞれの会社の過去三期分の売上高、粗利益率、右端には社内担当者の名前が書いてあった。「Y」では前期に 159社と取引があった。しかしあえて 50社だけの表にしたのは、それだけで売上全体の 86%を占めるからだ。

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(画像をクリックすると大きくなります。会社名と数字はすべてフィクションです)

 

課長以上の役職者だけが集まって、半期に一度の営業戦略会議が始まった。配付された資料をみて各自が自由に所感を述べた。

・K 社って過去三年、ずっと横ばいなのですね
・N 社にはいつも振りまわされっぱなしですが、全然儲けさせてもらってないですね。担当の U 君はなにをしてるのだろう?
・今年 H 社の売上が一気に増えましたな。まだ 26位ですが今期は、もっと上位に行ってしかるべきだろうね
・ついに E 社がベスト 10から外れましたか。二年前の人事異動で支店長が変わってから当社のシェアが減りっぱなしですよ

その集計表には見慣れない項目が幾つかある。まず、「シェア」と「成長力」である。「シェア」とは客先ごとに当社がどの程度のシェアを取っているかを 10%きざみで記載したもの。担当者が推計で数字を入れたものである。もうひとつの「成長力」とは、業績の勢いを客先ごとに「A」、「B」、「C」の三段階で評価した。それらによって、単純に金額の大きいところが今期の「重点顧客」なのではなく、今はまだ額が小さくても、営業活動に力を入れるべき相手がどこなのか見つけやすくなるわけだ。

集計表に「経理」という項目もある。これは、支払いの遅滞がないことや、送金時に請求通りの金額を振り込んできたかなどの実績を「A」「B」「C」で評価したもの。一社だけ「S」があった。それは、いつも期日前に振り込みがあり、しかもその都度、丁寧な連絡をくれるという。そうした気持ち良い相手との関係は大切にしたいが、支払いが遅れたり端数を一方的にカットして送金してくるような相手とは関係をもちたくない、というのが「経理」評価の意味である。

そうした一覧表をもとに、午前中の会議で今期の客先別目標金額がすべて決まった。そのうち 10社を「戦略顧客」と位置づけ、前期実績よりも大幅な受注増を目ざす。また、20社を「重点顧客」と位置づけ、平均以上のアップ率で受注額を定めた。これら 30社の顧客は、管理職や役員の一部が担当につく。のこりの 20社は「レギュラー顧客」といい、原則として若手社員や新入社員が担当することになった。

午前の会議の最後は、「ファイアリスト」の検討だった。「ファイア」とは英語で「解雇」を意味する。今期、幾らかの取り引きが発生したものの、利益面や人間関係面において継続取り引きにふさわしくない客先がいなかったかどうか検討する。これは前もって担当者と経理が話し合い、該当企業があればそのデータを会議に提出することになっていた。その日の会議では、例年より多い 4社がリストアップされていた。そのうちの 2社は次回から見積もりに参加しないことが決まった。残りの 2社については、次回の契約更新時に値上げ申請を申し出て、それが受理されない場合は契約更新を辞退する方針が決まった。

昼食をはさんで午後の会議では、協力会社(外注先)についても同様に議論した。過去三年間の発注金額の推移、想定シェア、業績の勢い、経理、といった評価項目は客先別の書式と同じである。もちろんこちらも「ファイアリスト」を検討する議題が用意されていたが、今年は「該当なし」だった。

こうして午前 10時から始まった営業戦略会議は、午前 2時間、午後2時間行われ、午後 3時に閉会した。

営業社員はこのあと忙しくなる。なぜなら、客先別・月別の受注計画書を完成させるほか、年度予算値に足りない分は新規に客先開拓する必要がある。そのための数字計画と行動計画を一週間後の営業会議でプレゼンすることになっている。

営業担当役員と責任者はさらに別の仕事が待っている。「戦略顧客」や「重点顧客」に対してどのようなアプローチをするかを明確にして経営会議の議題に議案書提出せねばならない。また、新規の客先開拓のためにいつ、どのような方法でそれを行うのかを営業会議で話し合い、その結果を役員会で承認されねばならない。時には昨年のように「計画差し戻し」という異常事態になる場合もあり、人事考課にも大きく影響する。

特別めずらしい事例ではないが、これが建設会社「Y」の決算期と半期終了時に行われる予算編成現場である。あなたの会社ではどのような風景があるのだろう。