新入社員や若手社員といえども会社の問題点をよく見抜いている。
むしろベテラン以上に感度が高いときだってある。
自分たちが思っていることを自由に発表できる場があり、上司がそれを真剣に聞いてくれるとわかると、普段おとなしい若手社員も突如雄弁になるものだ。その結果、社内は活性化する。
「そんなことは判っている」とか「以前にも君と同じ意見が出たが、それはうまくいかなかった」などと発言にフタをされると、意見を言おうという気がなくなるだけでなく、会社に対する忠誠心も薄らいでいく。
会社を変えよう、社員を変えようと必死になって部下をリードしてきた地方旅行会社のアナブキ観光開発(仮名)の穴吹社長(48才)は、今までと同じリーダーシップのとり方では限界があると感じはじめていた。
そこで、あるセミナーで聞いてきた “オフサイト・ミーティング”なるものを自社に取り入れようとした。
真面目な話を気軽な雰囲気でやろうとするのがオフサイト・ミーティングのポイントで、彼はそれを社内でやることにした。
オフサイトミーティングとは↓
http://www.scholar.co.jp/service/seminar/offsite2.html
「みんな、キリがついたらここへ集まってくれ」と予定時刻の午後5時きっかりに穴吹社長がオフィス全体に声をかけた。
スタッフ8名全員にお茶菓子が行き届くのをみてこう切り出した。
「今日はおつかれ。今からみんなで会社をよくするためのミーティングをやりたい。ミーティングとはいっても、いつもみたいにオレが司会をするわけでもないし、特定の議題やテーマがあるわけでもない。フランクに誰からでも自由に意見を言ってほしい。だれか口火を切ってくれるヤツはいるか?」
穴吹の予想通り、みんな下を向いて押し黙っている。彼らは会議のとき、いつもおとなしいのだ。
そこで、穴吹は個人的な話しをはじめることにした。
今の会社を作ったときの経緯からはじまって、初めての受注の感動、お客さんが感謝の絵ハガキをスペインから送ってくれたときの実物の絵ハガキも回覧したりした。
約15分間、穴吹は創業時の話をした。みんな結構興味をもって聞いてくれているが、このミーティングの主旨がわかっていないせいか、どことなく落ち着きがない。
いつもの飲み会と違って酒の勢いを借りていないためか、盛り上がりにかける雰囲気。あっというまに予定時間の2時間を使い切ってしまった。
半月後、穴吹は別の作戦でオフサイトミーティングを開始した。
各自の席には、5センチ四方のメモ用紙が10枚ずつ配られていたのだ。
穴吹は言う。「みんな、まずメモを一枚使って今まで誰にも言っていなかった自分の自慢話をひとつ書いてくれ。どんなささいなことだって構わない。1分くらいの時間で思い出して書いてくれ」
各自が書いたものを読み上げ、それを補足した。
・ちびっ子相撲の大会で3年連続優勝したことがある鈴木君
・小学生のとき作文コンクールで全校佳作をもらい、校長先生から筆箱をもらったという伊藤君
・不良だったので父親から勘当され、田舎から東京に来て10年。去年ようやく父親に許されたのがうれしくて、両親に温泉旅行をプレゼントしたという斉藤君
・年末ジャンボ宝くじで3等100万円を当てたことがある水谷さん
・バスガイド時代にお客様アンケートの結果でいつも社内ナンバーワンだった玉城さん
・・・etc.
お互いがけっこうスゴイ、ということがわかりムードが盛り上がってきた。
穴吹はこの雰囲気が社内にほしかったのだ。
<つづく>