司馬遼太郎の『項羽と劉邦』を読むと、リーダーの器という問題をいやというほど考えさせられる。
のちに天下を平定する劉邦は田舎出身の無頼漢。粗野で好色だが私欲にはとぼしく、いくさ下手。
一方の項羽は都会出身のエリート。頭も良いし弁も立つ。おまけにケンカや戦にも強い(イケメン?)ときている。
この両雄が覇権を競った2000年以上前の中国の実話なのだが、結論からいうと、粗野な無頼漢の劉邦が勝った。
劉邦のいくさは本当に弱かったようで、各地で連戦連敗した。
だが負けても負けても劉邦軍は明るい。いつも彼らは陽気で笑いが絶えなかったという。
片や、勝っても勝ってもムードが盛り上がらなかった項羽軍。その差は、リーダーにある。部下をノセる能力の有無にあると思うのだ。
良いリーダー、良い経営者は総じて部下をノセるのがうまい。もちろんミーティング運営も上手だ。
脳天気に盛り上がっているわけではない。時には深刻かつ辛辣な意見も飛び交うが、最後には自分たちが勝つ、目標は達成されるのだ、という予期がその場をおおっているのだ。
そうしたムードを作るためには、壁の花(パーティなどでポツンとヒマそうにしている人)を作らないことである。
上手なミーティングの鉄則は、一秒でも早く参加者全員を精神的にも身体的にも議論に参加させることだ。
ミーティングテーブルに座ってはいても「心ここにあらず」という状態をなくしてあげよう。そのためには、参加者個々に質問を発して発言を促すことが一番だ。だが、互いに牽制しあって発言が活発にならないときは、メモに意見を書いてもらい、それを順に発表していくようにすればよい。
次にマジックで模造紙に書く、などの作業を通して身体も使うようにすれば、全身がミーティングに浸りだすはずだ。
さて、昨日のアナブキ観光開発(仮名)におけるオフサイトミーティングの続き。
各自の自慢話を披露しあってムードが盛り上がってきたところで、社長の穴吹はこう言った。
「じゃ、次に仕事のことや会社のこと、個人的なことなどで今頭の中にあることを一件一枚で書き出してゆこう。互いに読めるていねいな文字でわかりやすく書いてほしい。5分くらいでやっちゃおう!」
と穴吹自身もサインペンでサラサラと書き出した。
それにつられるように、一人、また一人という具合にやがては全員がペンを走らせた。
皆のペンが止まらないので結局3分延長した。一人あたり数枚のカードを書いたようだ。
書いたカードを読み上げ、テーブルのしかるべき場所にそのカードを置く。次の人が自分のカードを一枚読み、また置く。
このようにして約30分、全員が自分のカードを読み上げ、テーブルの上にはカテゴリー分けされた状態のカードが島になっている。
それを模造紙に貼り付けていく。最後にその模造紙そのものも壁に貼る。
こうして各自の意見がすべて貼り出され、一覧できるようになった。
ここまでの作業を終え、穴吹は言った。
「ひとまずご苦労さま。現時点における我々全員の関心事がすべてこの模造紙にあると考えてよいだろう」と皆の目を確認した。
そう言いながらも穴吹自身が遠慮して書かなかったアイデアがいくつかある。
それは、役員スカウト問題だ。
それと同様に社員にしてもまだ全部書き尽くしてくれたとは思っていない。きっと遠慮して黙っているか、あるいはまだ言えない段階のことなのかもしれない。
しかし大切なことは、真面目な話を気楽に言える場が定期的にあることだ。穴吹が始めた穴吹流オフサイトミーティングは、彼の会社を未来志向に変えていってくれるに違いない。