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実車に付け

「 “実車に付け、空車に付くな” が僕の流しモットーです」と語ってくれたのは東京の大手タクシー会社の運転手須藤さん(仮名33才)。

彼は今のタクシー会社に入る前には、コンピュータプログラマーをしていたという。
自らが運転好きであることと、都内の地理に精通しているという理由でタクシー会社に転職して半年になるという。
仕事の感想を尋ねると、「自分の才覚次第で収入が大きく変わってくるので、とてもやり甲斐があります」と白い歯をみせてくれた。

先月の月収は40万円というので悪くない。成功の秘訣みたいなものを尋ねるたところ、冒頭の言葉がかえってきたのだ。

「 “実車に付け、空車に付くな”」

その意味するところはこうだ。

須藤さんがタクシー会社に入って最初の月、彼はガムシャラに流した。タクシーを拾ってくれそうな場所を何ヶ所かリーダーから教わり、そこを中心に流しに流した。先輩ドライバーが休憩したり仮眠をとっているときも彼は真剣に流した。

一週間もしないうちに彼は頭角を表す。中堅社員並みの成績を上げだしたのだが、その頃彼はあることに気づいたという。
それは、「実車中によく手を上げられる」という法則だ。果たしてこれが法則なのか、それとも単なる気のせいなのか。どうも気になるのでデータにとってみることにした。

一日何回お客から呼び止められるかというデータで、実車中の時と空車の時との回数を比較して彼は驚くことになる。
ある一週間だけの集計だが、空車の時より実車の時のほうが手をあげられる回数が多いというデータが出たのだ。

次の休日、「なぜだろう?」と彼は考え込んだ。理由が思いつかないのだ。ず~と考え続けたが「運」とか「ツキ」という結論しか思い浮かばなかったという。

結局いくら考えても理由が思いつかなかったが、須藤さんはデータを信じた。そしてデータに基づいて行動することにした。自分が空車でも他の実車中の車のあとを追いかければ稼働率が上がるのではないかという仮説を打ち立てた。
それが証明できたかどうかはまだ怪しい。しかし、須藤さんの営業成績は営業所中でもトップ10%に入っているという事実をみても、こうした科学的営業法はいかなる世界でも有効なのではないかということだ。

年内に須藤さんの車にもう一度乗って、「実車に付け」の信頼性を確かめてみることにした。