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ある会社の真摯さ

「うちは研修教育に力を入れています」と社長自身が胸をはる会社から研修を頼まれた。行ってみると本当にすばらしい。

何が素晴らしいかというと、新任役職者研修なのに社長が最前列に座って私の講義を聴いているのだ。しかも誰よりも大量にメモをとっている。私の顔を見る時間より、下をむいてノートをとる時間のほうが長いくらいだ。

「背中で語る」という言葉があるが、社長が一生懸命ノートする姿を見ながら居眠りできる社員などいない。
なによりも社長の存在によって会場内の空気がピーンとするのが講師としてありがたかった。

研修に力を入れている会社は研修後の懇親会まで違う。世間話のような会話はなにひとつ出ない。

「今日の研修で何を学んだか」をひとり3分ずつスピーチする。講師に対するお礼や質問もそこで出るので、講師も喉をうるおす程度しかビールを飲めない。

私が、「社長みずからが最前列でメモをとるなんて素晴らしいですね。社員にも集中力がでますよ」と話しかけてみた。
すると社長からこんな回答が返ってきた。

「武沢さん、私は社員に見せるために勉強しているのではない。私自身が勉強しなきゃならんのでそうしている。それと、もうひとつは、講師が社員とマッチしていたかどうかを判断するためにも自分が参加しないと分からないでしょ」

外部講師や人事部に任せっぱなしにせず、社長自身が研修に参加しよう。

懇親会終了時にまた驚いた。
司会役の人事担当者がこんなことを発表したのだ。

「皆さん、それではいつも通り今日の研修レポートは今日中に本社宛にメールしてください。交通費はそれとひき替えに口座振込されます。
万一レポート提出がなかった方は、交通費支給がないだけでなく次回の研修受講もできなくなりますのでくれぐれもお間違いのないように」

そうなのだ。この会社のレポート提出はすべてが今日中。それを怠るとペナルティがあるという。
ちなみに、出張レポートも当日提出が義務づけられ、遅れると交通費がもらえないそうだ。

日頃の現場を離れて研修受講や出張する者にとって、これらは最低限の約束事だということだろう。

社長の真摯さがあるゆえに、社員にも真摯さを要求できるのだ。