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西安の運転手

「残念だけど西安は治安があまり良くない。スリはもちろんのこと、集団で取り囲んで金品を奪う強盗だっている」と西安出身の中国人から注意されていた。

かつてベネチアでもローマでも香港でも同じような注意を受けてきたが、今回は地元出身者が何度もそう言うので普段以上に警戒し、一人空港に降り立った。

出口を出てタクシー乗り場に直行する私に数人の白タクドライバーが売りこみにくる。
「プーヤォ」と彼らをしりぞけ、一目散にタクシー乗り場へ。

「メーターを倒してANAホテルまで行ってほしい。ちなみに幾らで行けそうか?」と運転手に尋ねる。だが、あいにく彼は黒サングラスにパンチパーマ。30才台半ばだろうか、不良っぽくてイヤ~な予感がした。

もういちど、「ハウマッチ?」と私。
彼は「ワンナワー。ワンハンドレット・エイティ・イェン」と片言の英語。
「市内まで一時間で180元か。おおむね聞いていた通りの数字だな」と思いそれに乗る。
だがスタートしても、ラジオや音楽CDも無線も携帯もならない。無言で無音だ。結局、市内に入るまでの数十分もの間、エンジン音と風切り音、それにクラクション以外なにも聞こえない。
やっぱり少し不安になってきた。

「ダッシュボードから鉄砲が出てきたらどうしよう」、「知らない場所へ連れて行かれたらどうしよう」など、あらぬ不安は広がる。

だが、冷静に車内を観察してみると、助手席におかれたクッションはスヌーピーだ。しかも後部窓ガラスの所におかれた麦わら帽子には、よだれかけをした熊のキャラクターが描かれている。

「この運転手の趣味とは思えない。きっと子供がいるのだ」と思うと急に私にも余裕が出てきた。

50分後、ANAホテル到着。
料金は165元だった。ばっちり予算内だ。うれしくなった私は200元を彼に手渡し、「釣り銭は不要です」と告げた。
彼は、二枚の百元紙幣を両手で受け取り、額のあたりにそれをおし頂くようにして「シェシェ、シェシェ」とお辞儀した。
黒サングラスを外した彼の目は、優しげでつぶらな瞳だった。

自分の名刺を渡しながら、「帰りにもタクシーに乗るのならここへ連絡して下さい」と自分の名刺を差し出す彼。
帰りのタクシーはおろか、翌日の一日観光も彼にお願いし、三日間で彼に合計1,200元支払ったが余りあるものを返してくれた。

さて西安は昔、長安といった。

紀元前10世紀から紀元後10世紀までの約2,000年もの間、秦・漢・隋・唐など歴代王朝の都が置かれたところである。
秦の始皇帝の墓陵や兵馬俑博物館もある。8,000体もの兵馬は圧巻のひとこと。
1974年にここで井戸を掘っていた農民が兵馬俑の最初の発見者となった。彼は今年80才。お百姓をやめて、今はこの博物館の名誉館長としてほぼ毎日出勤し、ガイドブック購入者にサインしてくれている。

兵馬俑の発見によって中国も西安も変わったが、発見者の人生も大いに変わったみたいだ。

西安は、英雄豪傑が活躍した三国志時代の中心都市でもある。市内から130キロほど離れたところには諸葛孔明最後の決戦地となる五丈原がある。
「史記」の著者・司馬遷の墓もあるし、楊貴妃が玄宗皇帝とロマンスを重ねた天然温泉保養地「華清池(かせいち)」もある。

遣唐使の一員として西安を訪れた空海が、恵果大師から密教を学んだ青龍寺もある。
三蔵法師がインドから膨大な仏典を持ちかえり、すべてを翻訳したお経が保存された大雁寺もある。城門を西に歩けば、そこからがシルクロードだ。その影響か、イスラムのモスク(寺院)や市場もある。

歴史、文化、宗教、芸術、人間ドラマなどすべての要素をはらんだ古都・西安は、タクシードライバー揚さんのおかげもあって私のお気に入りシティとしてブックマークされることになった。

次は五丈原制覇だ。