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明日は今日より素晴らしいか?

自宅にある HDD レコーダーには 500時間分の番組録画ができる。毎週自動的に録画するように設定してあるものや、その日の朝に手動で予約するものもある。この録画番組の管理がくせもので、特定のジャンルのものはずっと貯まる一方なのだ。ひどいのになると二年前の番組がいまだに未視聴である。

私の場合、「ガイアの夜明」「プロフェッショナル 仕事の流儀」「カンブリア宮殿」などは後まわしになる。まず再生されるのはバラエティだ。「ぐるナイ」「ネプリーグ」「お試しかっ!」などは録画されたその日に見終わるほどである。

「なぜそうなのだろう」と不思議に思う。実際に「ガイアの夜明け」など、見出すと止まらないぐらい面白い。なのにバラエティを優先させるのは、家族のことを思ってそうしているわけではなく私一人のときもそうなのだ。きっと、家にいる時ぐらいはリラックスしたいからだろうと思っていたが、他の理由もあることが分かった。

今日の話題の出典は例によって『スタンフォードの自分を変える教室』である。この本に、マクドナルドのメニューにヘルシーな品物を加えたとたん、ビッグマックの売上が驚異的に伸びたという話が紹介されていた。その興味深いレポートに興味をそそられた大学のマーケティング研究者たちは、様々なフードメニューを開発して模擬店舗で実験を行ったという。その結果分かったことは、メニューにサラダが入っていると、とりわけヘルシーではないもの、もっとも太りそうな食べ物を選ぶ確率が高くなるということであった。

同様に自販機でも実験した。通常のジャンクフードの中にヘルシーな食べ物(低カロリークッキーなど)を入れたところ、多くの被験者は最もヘルシーでないお菓子(この場合「チョコレートオレオ」)を選ぶようになったというのだ

つまり私たちは、そこに健全なものがあると安心し「今度はサラダとウーロン茶のセットにするけど、今日はビッグマックとコーラにしよう」という心理が働く。中間のフィレオフィッシュやベーコンレタスバーガーを選ぶのではなく、最もヘルシーではないビッグマックをチョイスするわけだ。

録画した番組一覧のなかに NHK の教養番組が入っていると、それだけで安心してもっとも他愛のない番組を先にみてしまう心理はそこにあるように思う。

このマクドナルド実験をさらに拡大解釈していくと、目標を作っただけでもう満足して達成した気分になる、という心理もそこにあるのだ。実際にはまだ何も始まっていないのにモチベーションが高くなるのだ。今日やろうと思うことを To-Do リストに書き上げたらひとまず安心して、とりあえず新聞を読みはじめたり、予定になかった Facebookチェックを始めたりする心理もそこにある。

その深層心理には、将来の私は今よりももっと素晴らしい選択をする人間になっているだろうという自己信頼がある。今日はビッグマックを選ぶが、あすの私はサラダセットで満足しているはずだ。今夜は「お試しかっ!」を見るが、明日は「ガイアの夜明け」を喜んで見ているだろう。可愛らしい人間心理ではあるが、そろそろこうしたトリックから抜け出よう。

過剰な自己期待はやめにする必要がある。いままで出来なかったことが明日急にできるはずがない。今まで雑用に追われていたのに、明日、急に雑用がなくなるわけがない。そうした「人間は急には変わらない」という大前提に立った上で、何を変えるべきか、どのように変えるべきか、いつから変えるべきかを検討する必要がある。

私は 11月からジムに行くと決め、ひと月で 21回行った。その時間をどうやって捻出するか、筋肉痛や疲労対策はどうするかも地に足をつけて考え実行した。同じく 11月から「一日一食にする」と決めた。そして 95%それを守っている。この二つを実行すれば歩くのにも支障がある膝の痛みを大幅に緩和できるはずだと。人は激痛をやわらげるためならがんばれることがわかった。そして 5キロ減量し、膝はほとんど痛まなくなった。

こうした既成事実があれば、明日は今日より良くなるだろうという期待が現実味を帯びてくる。

どのような既成事実を積み上げることが最も効果的かは人によって答えが異なるだろう。また、同じ人でも時期によって異なってくる。したがって四半期に一度、何を新たに実行するか、何を新たにやめるかを検討する必要があるはずだ。