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「動くデパート」と「学士ドライバー」

Rewrite:2014年4月1日(火)

かつてエムケイタクシーのホームページ「エムケイの歴史」にこんな記事が載っていた。Rewriteした2014年4月時点では記事が見つからないのですでに以下のサービスは終了している可能性があるが発想がユニークなのでご紹介しよう。
果たしてエムケイの創業者・青木社長(当時)は何を考えたのか。

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タクシー乗務員の所得は、たとえ実車率が100%になったとしても限界がある。MKの理想のひとつ、乗務員の給与を“パイロット並の所得”に引き上げるためには、タクシーの売上以外から収入を得る必要がある。そこで、お客様から何か品物を売りたい・買いたいという情報を得てきて、その売買を成立させ、売り主からマージン(情報料)をもらって乗務員に分配しようと試みたのである。そして、これを「動くデパート」と名付けた。

仕組みは至って簡単である。

タクシーの車内には大きく「動くデパート、売りたい、買いたいものがある方は何でもお申し付け下さい」と表示した。
それを見た乗客が、例えば、「自動車を買いたいのだが」と乗務員に相談されれば、「それでは適当なところをご紹介しますので、お名刺を一枚頂けますか」といって、名刺を頂戴する。
会社にはそのような情報を管理する部門があって、そのお客様の情報を日産、トヨタ、マツダなどディーラーに渡す。すると各ディーラーがそのお客様にそれぞれセールスに行って、商談が成立すれば、ディーラーから情報料(マージン)が入り、その60%を乗務員に支給するというものである。
(スタート時は社員の関心を高めるため、マージンの全額を本人に支給した)

次いで考案したものが、学士ドライバー制度というものだった。エムケイでは、原則として同業他社の経験者を社員に採用しない。従って、エムケイでの採用は他産業からの転職者が多い。理想をいえば、タクシー業といえども新卒者を採用し、一般企業と同じように一から教育していくことが必要だ。そこで、思い切って昭和50年頃から大学新卒者の募集を実施した。

ところが実際に大学を回って「学士ドライバーの募集に来ました」というと、「うちの大学もそこまで落ちぶれたのかな」と言われた。そこで、各大学の就職担当者を会社に招き、エムケイの歴史や現状をつぶさに見てもらった。そして、これなら大学生の就職にふさわしい会社だ、という事を理解してもらった。

そのような経過を経て、昭和52年頃からは、会社説明会に多数の学生が参加してくれるようになり、テレビや新聞等でも報道されるようになったのである。

「大学を出てまでタクシードライバーか」と思われるかもしれないが、MKでは他産業と同様に、学士ドライバーに対しては完全月給制によって給与の保障をしている。
タクシーと言えば歩合制が常であるが、それを完全月給制にしたのはタクシーに事故が多かったり、サービスが悪い根本の原因が歩合制の賃金体系にあり、高年齢になるほど収入が下がっていくのも、この業界だけの非人間的なところだと考えたからだ。

タクシーを除く全ての業種が、月給制で経営できるのに、タクシーだけが例外であるはずがないと考えた。そこで実際に、完全月給制である学士ドライバーが、教育によってどのくらい働くかという一つの実験を試みたわけである。

彼らは毎年4月1日に入社して、5月には営業に出る。初めのうちは売上が低いが、月を追うごとに成績は良くなり、9月頃になるとプロドライバーの平均を上回るようになる。つまり、全く白紙の人間に仕事の尊さを一から教えていけば、それが常識となり、道徳となることが証明され、教育によって、タクシー労働者の賃金体系を完全月給制に変えることが不可能でないとわかった。

また、学士ドライバーはきわめてマナーが良く、サービスのレベルが高い。会社の指示も良く徹底するから、乗客に好評だ。こういう社員を全員揃えればタクシーの信頼性は今とは比較にならないくらい向上する。経営者は、学士が入社したいと考える会社に成長させなければならない。学士ドライバーの採用を始めて以来毎年約10人が入社している。その中からは会社の中堅幹部に成長したものも多い。

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「エムケイの歴史」より抜粋

夢とアイデアがあれば、次から次に革新的な手が打てるという好例としてエムケイタクシーをご紹介した。ビジネスの常識、業界の常識に敢然と挑戦しよう。