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夢を掘り当てた男 その2

Rewrite:2014年3月26日(水)

シュリーマン49歳は、ヒッサルリクの丘に立っていた。この丘の地下にトロヤ遺跡が眠ると信じた彼は、いよいよ人生の最終目標に向けて挑戦を開始した。しかし、彼の行為に対して考古学者たちは「ホメロスの物語を信じて大金を使うなんてバカげた話さ」と陰口をたたき合っていた。150人の穴掘り労働者とて、誰一人として遺跡を信じている人間などいないありさまだ。

いままで語学やビジネスに熱中することはあっても、自分の夢を決して忘れなかったシュリーマン。そんな彼にとって、他人のうわさや批判などは全然気にならない。燃えるように暑い日も、凍るように寒い日もヒッサリクの小屋を拠点に発掘をつづけた。それは「毎日タマネギの皮をむくような仕事でした」と、のちに語っている。

そうして2年が経過したある日の午後、「シュリーマンさ~ん、何か変なものが出てきたました!」と、穴掘り労働者の声。駆けつけてみると、それは城壁のようなものであり、さらに掘っていくと神殿や宮殿に通じた道も見つかった。やがて土の中から、きらりと光るものが現れた。

それは、黄金の王冠、首かざり、耳かざり、指輪、水入れ…。おびただしい宝ものの数々。

「こ、これは・・・まさしく、」
立ちつくすシュリーマンの脳裏には、子どものころに本で見たまっかに燃えるトロイの絵がはっきりとよみがえった。
「ホメロスの物語は、やはり伝説ではなかった。わたしが信じつづけたことは、夢ではなかった」
シュリーマンは、あふれるなみだを、こらえることができなかった・・・。

しかし、多くの考古学者は最初、この遺跡をトロイのものとは誰も認めてくれなかった。シュリーマンはその後も数々の発掘に成功し、そのたびに、莫大な財宝を発見する。そして、68歳のとき、現地に考古学者を集めて学会を開催し、誰もが認める「トロイ遺跡」となる。
彼の物語と彼の生涯はここで終わっている。

いかがだろうか、これは実話だ。
常識で考えれば、遺跡の発掘をしたいのなら考古学者を目指すべきだろう。決して大商人になるという中間目標を設定したりしない。なぜなら、それ自体が達成できるかどうかわからないし、遠回りである。
しかも、大商人になるために彼は、語学をマスターすることに多大な時間を割いている。これはちょうど、経営者がコンピュータの開発言語を勉強するのに似ていなくもない。

生涯の目標を逆算方式で計画したからこそ出来た行動に違いない。

◇最終目標・・・トロイの遺跡発掘
◇中間目標・・・発掘資金と時間を確保するために莫大な富を蓄積する
◇短期目標・・・貿易商人として成功する
◇手段・・・貿易に必要な語学をマスターする

えてして「戦略的」な行動とは、目的とは違う方向に進むようにみえるものである。私たちの人生や経営にも、シュリーマンと同じような戦略的な考え方が必要なのかも知れない。