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イノベーターからラガードまで

今年の1月2日、正月休みを終えて大垣の実家から名古屋へ戻る車のなかで妙なメールを受信した。買った覚えのない数点の品物の合計金額10万円がカードから引き落としになるというのだ。
急いでサイトに連絡し、事情を説明したおかげで実害は何もなかったが、車を運転していた弟が「だからネットは恐いんだよ。日頃から言ってるよね、ネットは危ないって」と私をふり返り、忠告する。

三つちがいの弟は典型的なアナログ派で、いまもガラケーを使い、インターネットは一度もつかったことがない。メールアドレスもな
のではないか。最近、勤務先から支給された iPad が彼の部屋に置いてあるが、映画以外には使っていないようだ。

私は新しいものにすぐ飛びつく。35年前にパソコンに飛びつき、25年前に Windowsに飛びつき、20年前にノートパソコンとインターネットに飛びつき、18年前にメルマガに飛びつき、10年前にスマホに飛びつき、8年前にタブレットに飛びつき、3年前にスマートウォッチに飛びつき、半年前に AI スピーカーに飛びつき、先々月 VR に飛びついた。そして今、虎視眈眈と次に飛びつくものを見定めている。

イノベーター理論というものがある。人の消費行動を次の五つに分けたものだ。

1.イノベーター(革新者)
2.アーリーアダプター(初期採用者)
3.アーリーマジョリティ(前期追随者)
4.レイトマジョリティ(後期追随者)
5.ラガード(遅滞者)

どうやら私は2で、弟は5だと思う。

イノベーターとは、市場全体の2.5%の層を指す。製品をもっとも早い段階で購入する層で、商品の目新しさをもっとも重視する人たちである。英語が堪能な人が多く、海外のネット記事をニュースソースにしていることが多い。

アーリーアダプターは市場全体の13.5%の層を指す。初期採用者と訳される人たちで、流行に敏感で、自らの判断で新製品を購入する。
いわゆる「オピニオンリーダー」はこの層から誕生すると言われている。新製品の評判がどうとか、売れている・いないなどの情報は関係ない。興味があるから買うのである。
この層に受け入れられると、次のマジョリティ層(多数派)へのアプローチがしやすくなる。

アーリーマジョリティ(前期追随者)は市場全体の34%を構成する。
新しいものに興味はあるが、購入には慎重な人々で、衝動買いはしない。初期不良があることを気にし、初期利用者の評価やコメントを注意深く読んで購入判断を下す。どちらかというとアーリーアダプターの影響を受けやすい人たちでもある。

レイトマジョリティ(後期追随者)も市場の34%を占める。新しいものに対しては懐疑的な消費者である。新市場の半分以上が買ったのを見て、自らも重い腰をあげる。

ラガード(遅滞者)は市場の16%を構成する。もっとも保守的な層で、新しい製品は原則として疑ってかかるか、否定する。今使っている製品が壊れでもしないかぎり、新しいものを買おうとは思わない。よくいえば、もったいない精神がとても強い層でもある。

アメリカのマーケティングコンサルのムーア氏はキャズム(隔たり)理論を編み出した。それは、イノベーターとアーリーアダプターで構成される初期市場と、アーリーマジョリティなどで構成されるメインストリーム市場の間にはキャズムがあり、買い方(売り方)も異なってくることを指摘した理論だ。

初期の人たちにとっては「新しい」ことが価値であるのに対し、多数派の人たちは、皆が使っている「安心感」や「信頼」が価値になる。
売り手はキャズムを理解し、それを乗りこえていかねばならない、という説である。
ムーア氏に言われるまでもなく、私は実家に帰るたびに弟のガラケーと新品同然の iPad を見て、とても深いキャズムを感じるのである。