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鬼門(きもん)と鬼退治の都市伝説!?

社是を漢字一文字の『毘』(び)にしている U 社長と久しぶりにお会いした。「せっかくですから、そのデパートの屋上のビアガーデンで一杯やりましょう」ということになり、花曇りではあったがビールを注文。

乾杯のあとしばし雑談し、私の方から『毘』についてお尋ねした。
新潟県出身の U 社長は郷土の英雄・上杉謙信公に心酔しており、謙信公が信仰していた毘沙門天(びしゃもんてん)像にそっくりの像を手に入れ、とても大切にしているという。

仏法を守護する「四天王」のひとつ多聞天(たもんてん)のことを別名で毘沙門天という。他の三つは、持国天、増長天、広目天である。
毘沙門天は最強の武力を誇るとともに、北の守り神であることから鬼門の神ともいわれる。日本の中心、京都朝廷からみて鬼門は越後。
「我こそが毘沙門天の再来なり」と『毘』の一文字を旗印に掲げたのが謙信公である。

別名「越後の龍」ともいわれた。その由来は『毘』以外に『龍』の旗印もあったからだ。『龍』が本陣に高くかかげられたとき、それは「みだれ龍」と呼ばれ、敵陣に対する総攻撃を意味し相手に恐れられた。

そんな話題にしばし花が咲き、ジョッキビールも三杯目くらいになったころ、U 社長が意外なウンチクを聞かせてくれた。

「武沢先生、ちょっとジョッキを置いて目を閉じ、鬼を思い浮かべてみてください」
わかりました、と言われるがまま鬼を思い浮かべた。

どんなイメージですかというので、「角が生えていて金棒(かなぼう)を手にもち、トラ柄のショートパンツを履いています」と答えた。
U社長いわく、それこそが作られた鬼のイメージそのものなのだそうだ。
つまり、鬼門(方角は北東)とは方角でいえば丑(うし)と寅(とら)であり、牛の角とトラのパンツでそれを表現している。鬼は「うし」と「とら」の合成物なのだそうだ。

「なるほど、そういうことですか」と感心しながら私は四杯目のお酒に赤ワインを取りに行った。
席にもどると、U 社長は、紙ナプキンに丸い円を描いていた。
北の位置に干支の子(ねずみ)、その右に丑(うし)、北東に寅(とら)、3時の位置に卯(うさぎ)という具合に円のまわりを干支で埋めていった。

なにをしているのだろうと注目していたら、「鬼門(丑と寅)の正反対にいる干支は何ですか?」と U 社長が聞く。
それは、申(さる)と酉(とり)と戌(いぬ)だった。それが何か…、といいかけたとき私はアッ!と叫んでいた。
桃太郎の鬼退治はその三つの動物が活躍したのだ。

裏鬼門にあたるこの三動物を鬼退治に使ったという都市伝説めいた話を最初に指摘したのはあの江戸時代の人気作家・滝沢馬琴です」
「ええっ!あの南総里見八犬伝の・・・」
「そうです。昔も今も人間は都市伝説が好きですね」
「いやいや、びっくりだらけ。でも、まんざら本当かもよ」

話題は尽きない。終わってみたら U 社長の社是の話を聞きそびれたことに気づいた。