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攻略ノート

相当むかし、
大手小売業のある経営者は、狙った学校の正門前で下校時にビラを配り、「ちょっと君、パフェをおごるから話を聞いてくれないか」と学生達を誘いこんだという。
喫茶店でビジョンを語ったあと、交通費は全額会社負担で会社見学などをさせ、熱心に学生を口説き社員にしていったという。

あれから半世紀、
「大学を卒業した人間が働くところではない」と言われた小売業に優秀な人材が集まるようになったのも、往時の涙ぐましい努力があったことを見逃せない。

「うちのような会社にはヤンキーとニートと引きこもりとオタクのような奴しか入社してこない」と自虐的に嘆くある社長。
どこにでもあるような町工場、典型的な3K産業(キツイ、キタナイ、キケン)なので、普通の求人活動だけでは納得するような人材が入ってこないのは当然だろう。

どのようにしたら、優秀な学生が入社してくれるか?という設問を掲げ、真剣に知恵を絞ろうではないか。

一方反対に、学生の側でもすごい努力をしているケースが少なくない。実在する彼のような努力をすれば、就職難なんて全然こわくない。

東京に住む彼は三年生になってすぐに自分の進路を決めた。製菓会社の「A」、家庭用品会社の「B」、食品会社の「C」の三社を受験すると決めたのだ。それ以外の会社には行くつもりはなかったし、実際この三社しか受験しなかった。

「この三社のいずれかに入って営業をやる」と心に決め、それぞれの企業ごとに一冊の「企業攻略ノート」を作った。

その「企業攻略ノート」には、企業情報、株価、マスコミ記事、OB訪問メモ、などその企業に関する情報すべてを書き込み、貼り付けていったという。その企業に対する自分の思いの丈も書きつづった。

そうした活動を一年以上にわたって続けていった結果、その会社の社員よりも企業に詳しくなった。

こうしたノートを持参し企業訪問にのぞむ学生をみて、驚かない人事マンはいない。
彼はこの三社を受験し、すべてから内定が出た。もちろん、順番は決まっている。迷うことなく「A」を選んだ。

エリートという感じではない。外見はまったく普通の学生だ。そんな彼を見て、「うちの社員にも見習ってほしい」と思う経営者は多いはずだ。
だが見習うべきなのは、中小企業経営者の方だと思う。
「優秀な人材がこない」と嘆いているばかりでなく、彼の逆をやればよい。

「人材攻略ノート」を作り、望む人材のプロフィールを明らかにしよう。「優秀な人材」とはどういう人材を言うのか定義するのだ。
そうした人材を採用するためには、どのような会社になるべきか、また、今すぐ行動できることは何なのかを決め、実際に行動しよう。

本当に人材がほしいなら、変な目で見られながらも学生をカフェに誘うだろう。そうした気構えがあれば、今すぐできることは結構多いはずだ。
大切なのは覚悟である。