「○○さん、次の本は是非うちで」と編集者から言われた人は幸せ者だ。出版社があなたを評価し、目を付けてくれたのだから素直に喜ぶべきだと思う。だが、調子に乗って勘違いしてはならない。
「実るほど頭を垂れる稲穂かな」
の精神でいきたいものだ。
私も初めての本が発売になった日、担当編集者から「武沢さん、すごい出足です。すぐに増刷も決まりました。amazonでも今、○位です。これはすでに快挙です!」
という連絡を受けたときは我が耳を疑った。実際、amazonでみてみたら、私の名前の下に大前研一さんや石原慎太郎さんがいた。
うれしかったというより、舞い上がった。
「がんばれ社長!」読者にもしばらくは、吹聴しまくったことを覚えている。だが、もちろんそれは真の実力ではない。
第一、ホンモノの本は発売日にamazon首位をとったりしない。無名の新人がすぐに上位進出すること自体が作為的なのだ。
それ以後、
「不肖、武沢信行が書いた本がamazonで上位を飾るというのは一時的な現象で本当の力ではない」と考えるようにしてきた。
本がたくさん売れてウレシイのはわかる。だがそれは本の力なのではなく、メルマガやブログの読者と出版界の方からの「出版おめでとう!」というご祝儀相場だと思うようにしよう。
だから、浮かれすぎな作者の方に申し上げたい。
・「本は自分の名刺代わり・・・」
・「メルマガ読者が○人いるので、初版部数くらい自分一人で捌ける」
・「営業ツールを自分で作るくらいならお金もらって本を出した方が有利」
・「ネットを使って人為的にまずamazon上位にもってゆけば、地方の本屋は、その実績だけで仕入れてくれる」
などの発言は、読者のためにも後進の作家のためにも控えてほしい。
それは、事実であっても真実ではない。
出版界の方にも申し上げたい。
作者を育てているのは、出版社である。作者が良く育つも悪く育つも出版社の責任大だと思う。
「売れれば良い」「売れた者勝ち」ではポリシーがない。
・視聴率を取った者勝ち
・利益を上げた者勝ち
・アクセスを集めた者勝ち
・読者数を集めた者勝ち
なのではない。それらはあくまで評価項目の一つであって、どのような新たな価値を創造したかがメインの評価項目であってほしい。
従って、
「成功のノウハウ」と題する本を出すのであれば、従来からある成功のノウハウ本との違いが明確に出ていなければならない。
それが、「新たな価値の創造」なのであって、作者の体験が伴っているとは言っても、新たな価値が創造されていなければ書店に並べる意味がない。
本をゴミ箱へ棄てるような行為はしたくない。させたくない。
本を手放す場合でも、丁重に古書店にもってゆきたい。いつまでも本は私にとって聖なる存在であり、聖なる書店、聖なる作家、聖なる出版社であり続けてほしいと、本に育てられた者として心から願うものである。