「巧言令色鮮し仁」(こうげんれいしょく すくなしじん)
表面的には表情も穏やかで、ことばも巧みなのだが、相手を思いやる心が伴っていないことを意味する「論語」に登場することば。
タクシーの中できいたラジオ放送で、ある評論家が「政治家が続けてYesを4回くり返すと、それはNoを意味する」と語っていたが、何となく分かるような気がする。
昨日号で登場してくれた “新人君” は、「お客の話を充分にお聞きすることを心がけている」という割には、こちらにはまったくそうみえない。
なぜだろうと考えてみたら、彼の相づちに原因があるようだ。
私がまだ話しはじめたばかりなのに、「ええ、はい。はい。ええ」と、さかんに相づちを連発する。
「本当にあなたわかっているの?」と念を押そうとすると、私の言葉が消え去る前から「はい」と即答する。
これはきっと彼の「癖」なのだろうが、まるで話をさえぎられたように思えるのだ。これでは営業がうまくいくわけがない。
私は “新人君” にショック療法を試みた。
「ねぇ、あなた。仕事の話はもうよそう。握り(寿司)も出てきたことだし、あなたは食べることの方が今は大切でしょ。」
彼は、キョトンとしながらも「え、そんなことはありません。お話しをうかがいたいです」という。
そこで私は彼に忠告した。
「あなたの聞く姿勢は、話を聞きたい人の態度ではない。人の話を全身全霊込めて聞く練習をすべきだ。相手の話が終わるまで注意深く聞くこと。決して話の途中で意味を早合点してはいけないし、 “はい”とも “いいえ” とも言ってはならない。それどころか、同意を求められてもいないのに、話の途中で頷くのもやめるべきだ」
“新人君” は、その瞬間凍り付いたように固まった。笑みも消えた。
私は続けた。
「相手のお客さんは、一人一人が固有の存在だ。だから過去にあったどのお客さんとも人間とも違う人なのだ。だからどのような考え・要望・問題をもっているのかは、あなたの過去の記憶のデータベースにはないと思うべきだ。当然ながら、真剣に真剣に相手の話しを聞かねばならない。」
彼はさっきまでとはうって変わって相づちもなく私の話を最後まで聞いてくれた。たったそれだけのことで彼の好感度は倍増した。
「私の話を真剣に聞いてくれている」と私には感じるのだ。
気分がよくなってきた私は、調子に乗って彼に助言をおくり続ける。
「会食中の話し合いだから大っぴらにノートをとるのは野暮だが、アドバイスをもらいながら何一つメモをとらないのは野暮以上の”失礼”にあたる。そんな時は、ポストイットか何かの小さいメモ用紙にメモるか、お手元袋の裏にメモるんだ。とにかくメモっていれば、相手はドンドンしゃべってくれる。相手が饒舌になればセールスは必定、うまくいく」
彼は相づちと返事を我慢するというその一点だけで好感度が上がった。あなたの会社の営業マンはどうだろうか?
人の話を真剣に聞く術(すべ)をもっと磨こうではないか。