「人間は80歳まで強くなれる!」というキャッチコピーに惹かれて『武道の力』(時津賢児著 大和書房)という本を読んだ。
たしか先月の訪中時に持参し、杭州から上海へ向かう列車の中で、むさぼるようにして読んだものだ。
この本によれば、
野球でも相撲でも、サッカー、スキー、マラソン、格闘技など何でもが、20代や30代の若手選手が優勝する。つまりその年齢で選手としてのピークを迎え、それ以降は衰えて行くばかりである現状に対して、警鐘を鳴らしているのだ。
例外は剣道。剣道だけは、若手がハァハァと息を乱していても古老の剣士は微動だにせず勝つ。
このように、鍛え方次第でスポーツは80歳まで強くなれる。当然、脳の働きだって80歳までは強化できる、という前提で書かれた本だ。
理論書ではない。著者が今なお実践中の本だけに迫力がある。
たしかに身体というものは、鍛えないと弱っていく一方だ。それにつれて脳まで弱っていくのがやっかいだ。
情熱や欲望、闘争心、集中力、根気などといった精神力は、脳の働きに負うところが大きいわけだから、身体と脳は鍛えなければならない。
合気道・大東流の佐川幸義師範の弟子で、筑波大学の数学教授、木村達雄氏が、オリンピック候補になっていた柔道選手を片っ端から投げ飛ばし、全員を自信喪失にさせてしまったことがあった。
その木村氏が書いた本が『透明な力』(講談社)で、この本は武道に疎遠な人が読んでも啓発されるところ大の名著だ。
『透明な力』
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木村氏の著書では、師匠(佐川氏)との出会いの場面の衝撃談からはじまって、師匠にまつわる数々のエピソードを紹介している。
その中にこんなビックリする話が出てくる。
・・・佐川先生は十七歳で合気の極意をつかんでしまった。それを強化するためにいろいろ鍛錬を考えているので、最初から普通の人と考え方もやり方も違っている。(中略)
そして何十年と今でも休みなく鍛錬を続けているのである。なお筆者は、最近先生が使っておられる鉄ゲタ、鉄槌、鉄棒、鉄パイプの槍を見せていただいたが、その重さに驚いた。筆者が実際にこれを持ってみて、これをいきなり使ったら腕をこわしてしまうと思った。
(中略)
佐川先生が九十歳の頃、東大病院に念のための再検査を受けに行ったことがある。医師が運動心電図を計るので何か運動してほしいというと、先生はすぐさま百五十回腕立て伏せをやってしまい、医師を唖然とさせた。
・・・
これを読んだとき、私はすごいと思った。
“継続は力なり”とは言うが、そんな生やさしい表現ではもどかしい。
鍛えるという行為を継続するとミラクルが起きる。
この佐川先生も、若いころは逆三角形の見事に筋肉質な肉体を作っていたらしいが、その割に技に効果がないという理由で、考え方と鍛錬法を変えたそうだ。
最近になって、ゲーム端末を使って脳を鍛えるソフトが大人気だが、考え方と鍛錬法を工夫し、くる日もくる日も鍛錬に励むことによって、身体も頭脳も進化することが分かっただけで、やる気が出てくるではないか。あなたにあった鍛え方を見つけていこう。
『武道の力』時津賢児著、大和書房
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