25年ほど前、尊敬する経営コンサルタントの先生から「武沢さん、ドラッカーの本をお読みなさい」と言われた。
「はい、どんな本がよいですか?」と私が尋ねると、
「『現代の経営』が良いでしょう。私は今まで年に3回は読みかえしてきています。先日、ついにボロボロにすり切れたので新しい本を買いました」
サラリーマンの私が、しかも役職者でもなんでもない26才の若造が「現代の経営」を読んで理解できるのだろうか?
という懸念は杞憂にすぎなかった。
それは、私の知的好奇心や想像力を刺激してやまないワンダーランドのような本だった。
「へぇ、会社経営っておもしろ」、「組織ってすごく大切なんだ」、
「リーダーシップって重要なんだ、でも先天的なものじゃないんだ」
「経営者にもっとも大切なのは”品性”だなんて、すごく意外」
など、むさぼるようにブルーの蛍光ペンで線を引きつつ読んだ。
すべてブルーになってしまうページもたくさんあった。
以来、四半世紀。ドラッカー教授の新刊本はほとんど読んできた。
先週、イタリア旅行から帰国しました。
日本に着いて早々に、そのピーター・F・ドラッカー教授の訃報に接し、私は大変ショックを受けています。
ご親切に何名かの方が、メールで訃報を知らせてくださいましたが、その前に日経の夕刊でこの報に接したとき、思わず「えっ!うそ」と身を乗り出してしまいました。
今日、この「がんばれ社長!」を通して、あらためて氏の功績を讃えつつ、故人となられたことのお悔やみを申し上げたいと思います。
「いつかはお目にかかりたい、生のドラッカーさんにお会いしたい」と思いながら先延ばししてきた自分が悔やまれます。
まだまだ氏の新著を読みたい気持ちはかなわぬものとなりました。
今後は、膨大な著作を通して、決して色褪せることがない氏のメッセージを吸収していきたいと思います。
氏はかつてこう語ってくれました。
「私は父とシュンペーターとの会話に同席し、三つのことを学んだ。一つは、人は何によって人に知られたいかを自問しなければならない。二つめは、その問いに対する答えは、歳をとるにつれて変わっていかなければならないということである。成長に伴って、変わっていかなければならない。
三つめは、本当に知られるに値することは、人を素晴らしい人に変えることであるということである」
氏は私たちにそれを教えるだけでなく自ら実践しました。95才の没年まで、氏は衰えをしらない現役第一線の文筆家であり、教授であり、思想家であり、経営コンサルタントでした。
氏の影響をまったく受けていない経営者のほうが少ないのではないかと思われるほど、世界のビジネスや経営に影響を与え続けてきたのです。
また氏は大変な親日家というか、日本びいきでもありました。
日本経済新聞の「私の履歴書」によれば、氏はヨーロッパやインド、南米などからも招待を受け、講演に出向くことはありましたが、「贔屓になったのは日本だけ」と告白しています。
若くて魅力的な経営者が多い日本という国に惹かれ、魅せられていったといいます。
また、日本画の鑑賞は趣味のレベルを超え、ついにはコレクターとして自ら「水墨画名作展」を公開するまでになっていたそうです。
かけがえのない人を失った悲しみに半旗を掲げ、今日のメルマガをドラッカー先生に捧げます。
ながいあいだ、おつかれさまでした。
そして、ありがとうございました。
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20051112AT2M1200N12112005.html