昨日号で著者としての北見昌朗さんをご紹介したが、氏の本業は、社会保険労務士事務所の経営者だ。
氏の事務所は、従業員100人以下の非上場企業にしぼって顧問先をもつようにしていると聞いたし、原則的に名古屋以外の場所に講演に出かけることはしない。
当然、本業から逸脱したことには手を出さないという見事な「選択と集中」ぶりに、私も教えられることが多い。
最近、氏のメールマガジンを読んでいたら非常に興味深いことが書かれてあった。それは、企業の採用リスクに関することだ。
例えば、従業員を採用してみたら、その人が病気持ちだったということがあるだろう。
健康状態が「良好」となっていたから採用したのに、これほど病欠や遅刻・早退が多いなら話は別だ、もっと健康な人を採用したかった、というような経験はないだろうか。
生命保険に入るとき、健康や病歴に対する告知義務がある。ここで正直に告知していないと、あとから保険料がおりなくなることがある。
会社と社員の関係だった同じはずだと北見さんは考えた。それで、考案したのが、社員が入社時に記入する「健康に関する告知書」だ。
雇用時に提出してもらう「雇入れ時の健康診断」だけでは不充分だという。あくまで、「告知書」をもらう必要があるというのだ。
なぜならば、フィジカル中心の「健康診断」では表に出てこないような、「ウツ病」とか「不眠症」とか「生理不順」、「更年期障害」などは、本人から告知してもらわないかぎり、わからない。
しかも、応募者が自分で書き込む「告知書」なのだから、内容にウソがあれば、雇用契約自体が無効になることを応募者に認識させることになる。
健康に関しては、こうしたフィルターを設けることで、採用リスクをヘッジできるというのだ。
なるほど、グッドアイデアだ。 → http://tingin.jp/kenkou.htm
その他にも、顧問先や社労士を多数かかえる北見氏のオフィスでは連日のようにトラブルとその解決にあたっている。そうした中から、会社と社員との関係の事故を未然に防ぐ手だてをたくさん開発してきた。
健康リスクだけにとどまらない。
能力リスクだってある。
前職でこんな経験をした、こんな実績がある、というから社内規定を上回る賃金を提示して採用した。
だが、そんな経験や実績など当社ではなんの役にも立たなかった、という能力リスクだ。
その他、運転リスクだってある。業務時間内に交通事故を起こした。
脇見運転、居眠り運転、理由に関係なく、あくまで勤務時間の中だからという理由で会社の責任が問われたり、費用が発生したりする。
だが、それもちょっと待て。
運転に関しても、健康と同じように事故歴や違反、犯則の実績などを告知してもらう必要があるというのだ。
さらには、守秘義務契約。
特に退職した社員が、在職時に作った資料やデータなどを持ちだすことを禁じなければならないし、顧客名簿などの個人情報に関するものは門外不出である。一切の持ち出しをしていないという告知や、知りえた社内情報などを第三者に漏えいしないことを誓約してもらわねばならない。もし、何らかの理由によって損害を与えた場合は、損害賠償することを契約して退職してもらうというものだ。
社員を疑ってかかろうという発想ではない。安心して社員を信頼したいがためのリスクヘッジなのだ。
北見さんのメルマガ → http://tingin.jp/emailannai.htm