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無人島での貸借対照表

臆病なのは短所だが、慎重なのは長所になる。おせっかいなのは欠点だが、面倒見が良いのは長所だ。
つまり見方次第でいかようにもなる。

だったら、不運とか不幸というのも、見方を変えれば幸運や幸福になるのだろうか。

「はい、なります」というお話しをしたい。


イギリスの作家・デフォーが書いた物語『ロビンソン・クルーソー』(1719年刊)をお読みになった方も多いと思う。

内容は、投機的精神に富む貿易商だったロビンソンが両親の反対を押しきって航海にでる。だがひどい嵐にあい、たったひとり流れ着いた無人島で28年間にも及ぶ孤独なサバイバル生活をおくり、見事生還するという物語だ。

この物語の中でロビンソンは、無人島にたった一人で漂着した我が身の不幸さをなげいて、ひたすら悲しむ。

「私には食物も家も衣類も武器も逃げ場もなく、救われる望みもなく、前途にはただ死があるだけであった。猛獣に喰われて死ぬか、蛮人に殺されるか、喰べるものがなくて餓死するかのいずれかであろう。夜になってから猛獣をおそれて樹にのぼって一夜をあかした」と、ロビンソンは最初の日記に記した。

だが翌日、太陽の光を浴びながら周囲を見渡すと、相当な財産というか資産があることにも気づく。

まず、近くには水場があった。浜辺にはボートが打ちあげられていたし、沖合には、座礁した船が結構使える状態で残っていた。ボートと船を調べてみたら、食糧や衣類、ピストルや剣などの物資が出てきた。
おまけに、なにかの袋を振ってみたら、穀物が飛び散った。それが、数ヶ月後に大麦の穂を実らせたのだ。

たしかに、無人島単独漂着ということは不幸なことではあるが、身のまわりの境遇は決して悲観材料ばかりでないことに気づくロビンソン。
やがて、彼は貿易商としての知識を活かして、今の境遇の「良い点と悪い点」を貸借対照表にしようと考える。

左側に悪い点、右側に良い点を対比させ、次のように表を完成させていった。

・悪い点その1.
 私はおそろしい孤島に漂着し、救われる望みはまったくない。
・良い点その1.
 他の乗組員全員が溺れたのに、私をそれを免れてげんにこうやって生きている

・悪い点その2.
 私は全人類から絶縁されている孤独者であり、人間社会から追放された者だ
・良い点その2.
 私は「食うものも無い不毛の地で餓死する」という運命を免れている 

この作業をやりながらロビンソンは悟った。

「痛ましい境涯にあっても、そこには多かれ少なかれ感謝に値するなにものかがあるということを、私の対照表は明らかに示していた。世界じゅうで最悪の悲境に苦しんだ者として、私が人々にいいたいことは、どんな悲境にあってもそこにはわれわれの心を励ましてくれるなにかがあるということ、良いことと悪いこととの貸借勘定では、結局貸し方(良い方)のほうに歩があるということ、これである」と。

悟ったその日から、ロビンソンは助け船を求めるために沖合ばかりを見るのをやめた。そして、自らの力で強く生きる力を回復するため、規則的な生活習慣、労働習慣、学習習慣(聖書と祈り)を守り始めるのだった。


無人島に漂着するのを待たずともよい。壁を感じるときがあれば、いつでも一人で作ってみてはどうだろう。