経費は少ないに越したことはないが、何が何でも削減すべきかというとそうではない。むしろ、普通の経費とは違って、将来の売上げ増加につながる可能性が高い経費は、投資と考えて別枠で管理したいものだ。つまり、きっちりと予算を使いきる必要がある経費だってあるということだ。
そうした費用をここでは「戦略コスト」とよぼう。あなたの会社にとっての「戦略コスト」とは何の勘定科目だろう。
知人のある会社は、日本全国を販売エリアとしているが営業マンは驚くほど少ない。日本中の営業を役員3名だけで回っていた時期もある。
それで年商10億、粗利益9億、社員数40名、労働生産性2,000万超という結果を出していたから立派なものだ。
この会社の当時の「戦略コスト」は「旅費交通費」だった。毎月コンスタントに300万円ほど使っていたのだ。
はじめてこの金額を聞いたとき、私はビックリした。何たる自由奔放な経費の使い方。
だが、この社長は「戦略コスト」という言葉こそ使わないものの、「交通費は投資である」という考えをお持ちだったのだ。
また、ある専門店チェーンでは、従業員一人あたりの年間教育費用を「戦略コスト」と考えている。
予算は一人100万円、従業員数は60名なので、なんと年間6,000万円もの金額を研修教育費にあてている。その予算をきっちり使いきるのが人事担当者の腕の見せ所でもあるのだ。
それほどまでに投資して、人材の促成栽培をすることがこの会社の出店計画達成の鍵をにぎっていることを社長は知っているのだ。
「通信費(電話・FAX代・切手代など)が営業成果に正比例する」という会社だってあるし、「家賃が戦略コストです」という会社もある。
「武沢さん、昔は家賃に何百万も払っているベンチャー企業を見ていて、”この会社大丈夫かしら?”と人ごとながら心配したものです。
でも今自分がそれと同じことをするようになって言えることは、家賃は経費というより売上げ作りや求人効果を高めるブランド投資だと思えるようになったこと」と語るのはアクシスアンの社長、峯村静恵さん。
かつては、千葉県野田市に本社をおく「くすりのラクダ」として実家の実店舗を応援しつつ、独力で漢方のeコマースサイトを立ち上げ、わずか一年で月商1,000万円サイトにもっていった経緯がある。
その峯村さんが勇気を振り絞って投資したのが東京青山への出店。
莫大な家賃がかかる。
「最初は自分の給料をとらないというくらいの覚悟でやっていきました」と語るが、今ではこの勝負が大成功。
ついに来年2月には新店舗を名古屋に構える予定で、すでに物件も契約した。峯村さんにとっては「家賃」こそが「戦略コスト」だったわけだ。
アクシスアン http://www.acsysun.co.jp/
もちろん、無闇な経費増加は経営を圧迫する。ビジネスだから効果測定は欠かせない。私は粗利益で割ってみることをおすすめする。
そうすれば、生産性がわかるからだ。
例えば家賃を検討する場合は、家賃30万円で月間粗利益300万円ならば、
300万円÷30万円=10となるつまり一万円の家賃が10万円の粗利益を稼ぎ出してくれているわけだ。
家賃生産性10万円となる。
今度新しくオフィスを拡張して80万円の家賃を払おうとしている。
その場合、800万円の粗利益が可能になるようなビジネスアイデアを考えれば生産性は維持できる。そのあたりの見通しや予測をきっちりと紙に書いておこう。
できれば、峯村さんの会社のように経費増加率を大幅に上回るようなリターンを期待したいものだ。