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金ペン堂

新しい万年筆が欲しくなった。

「モンブランとパーカーの中字は持っているので、今度は細字にしよう。どのメーカーにしようかしら・・」と考えながら、金ペン堂へ向かう。
全国の万年筆ファンから愛され続ける金ペン堂は、80年以上の歴史を誇る老舗の“萬年筆専門店”だ。
1920年に先代である父が創業し、今のご主人の古矢さんは二代目。

想像以上に狭い店内に入る。

「こんにちは。仕事で使う細字で書きやすいペンはどれですか?」
「細字だね。予算は?」
「う~ん、考えてきませんでしたが、5万円位でしょうか」
「うん。それだけ出せればウチのイチオシが買える」
「イチオシ?」

結局、ドイツ製のペリカンM800というどこの文具店でも売っている万年筆を買ったのだが、わざわざ東京の神田神保町まで来たのには訳があるのだ。

そう、金ペン堂で買うと、“金ペン堂の万年筆”になっているのだ。

もともとペリカンに限らず、どの外国製のペンでも横書きに適して作られているそうだ。それを日本の漢字・ひらがな文字でも気持ちよく書けるようにするにはあらかじめ、調整が必要だというのが金ペン堂のこだわり。

金ペン堂では、調整済みのペンだけが店頭に並んでいる。たった2坪半の小さなお店だが、集客力は全国区。金ペン堂でなければならない、という熱心なファンは全国各地からここに集まる。もちろん、文壇の士も多いらしく、金ペン堂愛好作家による文学作品も店内に並んでいる。

一本一本ていねいに4時間かけて調整してあるので、店頭商品はどれを買ってもすぐになめらかに書ける。
某海外有名万年筆メーカーの社長が、金ペン堂で調整された自社の万年筆を買いにきたというエピソードまであるそうだ。
5万円以上の商品になると、ペンを裏返して半分の太さで書けるようにも調整されているので、細かい文字を書くときにたいへん重宝する。

井上ひさし氏が雑誌『通販生活』で、「1~2年間使い続けてきたような滑らかな感触が買ってすぐに味わえるのが金ペン堂の万年筆」と表現している。
私も近所のカレー専門店「共栄堂」でスマトラカレーを食しつつ、買ったばかりの万年筆をさっそく使ってみた。

まさしく官能的な味わい。書くことに心から喜びを感じる。結局、このカレー屋さんに2時間も居つづけ、来年の計画をノートに書きつづった。
書くうちに次から次へ新しいアイデアがあふれ出してくる。

ありがとう、金ペン堂。ありがとう、ペリカン。
この共栄堂さんの店内で、すでに万年筆代金の元をとった。