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ジンギスカン、レッドブル、F1レース

一目置いている後輩がいる。結構、いろんなことを知っていて、私をハッとさせる。その彼が、「武沢さん、美味しいジンギスカンの店を見つけましたよ」と興奮気味に言うのでついていったら、非常にまずかった。

「なんだよ、これは?」と私が不満そうに言うと、「じゃあ、武沢さんにとって美味しいジンギスカンって、どこですか?」と逆ギレ気味に聞かれた。

私は即座に、札幌の『だるま』か旭川の『大黒屋』だよ、と言うと、きょとんとしている。たぶん知らないのであろう。今度は私が、「だったら君にとって美味しいジンギスカンはどこだ?」と問うと、大衆焼肉チェーン店の名前が出てきた。どうやら味の好みが違うようである。

私は北海道でいただく生ジンギスカンが好物で、柔らかいラム肉をサッと焼いて、作りたての生ビールと一緒にいただく。相性はバツグンだ。それにひきかえ、この店の肉は固いしニオイもきつい。おまけにビールサーバーの手入れが悪いのか、ビールの味が酸っぱかった。

料理の味は我慢する私でも、生ビールが不味いのは許せない。「おい、出よう」と早々に会計を済ませ、近所の焼き肉屋に入った。ここで肉談義でもしようものなら不機嫌さが続きそうだったので話題を変えた。

気分を変えて彼が話し始めたのはエナジードリンクの世界市場についてだった。

「毎日必ず 1本は飲みます」というほどの『レッドブル』のファンだという彼は、レッドブルの歴史を語ってくれた。それによれば、もともとタイで小さな製薬会社を経営していたタイ人の男が「リポビタンD」をヒントに開発したドリンク商品があった。その商品は低迷していたが、オーストリアのレッドブル社と手を組んで完成させたのが今の『レッドブル』で、これが大ヒットした。オーストリア本社で作られる今の『レッドブル』は世界で一番売れているエナジー(栄養)ドリンクにまで成長した。ちなみにそのタイ人の男は 2012年に亡くなるとき、タイで三番目に裕福な男になっていたという。

「君、どうしてそんなに『レッドブル』のことに詳しいの?」と聞くと、彼がいちばん詳しいのは F1レースらしい。近年、F1を席捲しているのが『レッドブル』だというのだ。広告主として有名なのではなく、レッドブルが車を走らせ、F1界でランキング首位を続けているというから驚きである。

「どうして『レッドブル』が F1なの?」と私。「そこなんです、そこ。あのフォードが F1から撤退するとき、たった1ドルでチームをレッドブルに売ったのです。それが 2004年の話で、2005年に正式に F1参戦した『レッドブル』は、2010年に初優勝。以降、2013年まで 4年連続チャンピオンに輝いているのです」

「ホントかい?レッドブルの勝因はなに?」「私は二つあるとみています。ひとつは、レッドブル社の潤沢な資金力によるもの。もうひとつは、燃費です」「燃費? F1の世界にも燃費って必要なの?」「あら、武沢さんは F1でのルール変更もご存知ないですか?」「悪いが、まったく知らない」

ここまでくると、レッドブルと F1に興味が出てきた。不味いジンギスカンの記憶はすっかり失せていた。

<明日につづく>