近所に新しい割烹料理店がオープンした。新しいもの好きの私は、ある夕刻、一人で出向いてみた。石畳へと続く門の横にはかがり火が燃えさかり、その明かりのおかげで台の上のメニューが良く見えるようになっていた。
「どれどれ」、とばかりメニュー表をのぞいた私はビックリした。
なんとメニュー表は真っ白なのだ。いや、正確には、わずか12文字だけ印刷されていた。
『おいしい料理がすべて時価』
「すべて時価かぁ。時価って幾らなのだろう。それに、おいしい料理って、どんな料理なのだろう。魚、肉、豆腐、・・・?入るべきか、入らざるべきか。まさかボッタクリ店ではあるまい。」
玄関先でさんざん悩んだあげく、結局引き返して行きつけの鉄板焼き屋に入った。それ以来、その割烹の存在を忘れている。
企業でも、結構この割烹のような会社が多い。メニューも価格も不明瞭な会社だ。某日、某所にて。
「今日お集まりの皆さんの中で、メニュー表と価格表を持ち歩いている方は挙手をお願いしま~す」
40名ほどの社長が集まる会合で私が質問を発したのだ。
・・・、シーンと静まりかえったままお互いの様子を見ている。
「えっ?ゼロですか。じゃあ、会社に戻ればメニュー表がある人はどれくらいおみえですか?」
するとようやく2~3名の手が挙がった。製品やサービスをメニュー表にし、できれば価格も明示している会社がこれほど少ないのはなぜだろう?
そこでこう申し上げた。
「単純明快な話をします。メニュー表と価格表を作ってそれを社長も営業マンも持ち歩くこと。そして、名刺交換のときや交流会のときにはそれを必ず渡すこと。それだけで売り上げが伸びます。そして、失うものは何もありません」
すると、40名の中の一人の社長が9月に入ってから実行した。社長自らメニュー表と価格表を作り、それを持ち歩くようにした。すると、まだ半月経たないというのに、すでに二件の新規客先が増えたというのだ。鮮やかすぎるほどの好例ではないか。
業種は舗装切断専門業、要するに道路などをマシーンで切断する専門業者だ。社名は「金原カッター」、名古屋の会社だ。
了解を頂いたので、金原好宏社長の声をそのままご紹介しよう。
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うれしいばかりの金原です。先日の会合でご指摘があったメニュー表の件、当社は土木関連業なので単価表になるのですが、9月からこれを作り、またいつも持ち歩き、名刺交換のときにお客さんに渡していたら、9月は2件の新規顧客さんと取引できるようになりました。うれしい!! 簡単なことですが、この業界では、新規顧客の営業は皆なかなかしにくく、単価表と紹介の力を実感しています。
それと、「4月から新入社員が入社しますから、同業者を紹介して下さい。」(新卒の大学生を入社することをもPR)などのアピールも始めました。
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金原社長の話によれば、建設関係者と名刺交換するときには、必ずこの単価表を添えて名刺を渡すという。公共工事が減っていく今、民間の小さな業者が狙い目だとも教えてくれた。
http://www.job-comnet.jp/company/86.html
いちげんさんお断りならいざ知らず、上の割烹店のようなビジネスであってはならない。
メニュー表と価格表を作ってみよう。見積が必要な業種であれば、単価表でも良い。金原さんの会社でも、「御見積書」と書かれたごくシンプルなA4縦のエクセル表が今、大きな武器になっているのだ。