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経営するとは

毎年選挙の頃になると、テレビ局のアナウンサーが政治家にインタビューして「今の心境をどうぞ」と聞く。
すると政治家は、「人事を尽くして天命を待つ、という気分でしょうか」

こんな光景を何度も見てきた。国民の審判を仰ぐ政治家の気持ちとしては正直なところだろう。
だが、経営者が来期の業績見通しを聞かれて「人事を尽くして天命を待つ」などと言っていてはならない。それではマネジメントしていることにならない。

・一生懸命やります
・ベストを尽くします
・やれるところまでやります

いずれも、若手の言葉としてはほほえましいが、プロの経営者の言葉ではない。

「今日の言葉」のハロルド・ジェニーン氏(1910~1997)は、1959年に米国ITT社のCEOに就任。その後、四半期単位で58期連続増益を記録。
就任当時のITTは、売上高7.6億ドル、収益3000万ドルにすぎなかったが、彼がCEOを辞した1977年には売上高・収益ともに20倍になった。
当時の成長パフォーマンスは、IBMに次いで全米二位だ。

ジェニーン氏は1984年に経営回想録『プロフェッショナルマネジャー』を執筆。翌85年、日本でも早川書房から出版されていたが、最近、プレジデント社から上梓された。
85年当時を回想してユニクロの前社長・柳井正氏は、同著に寄稿して次のように語る。

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1984年に広島市にオープンした「ユニーク・クロージング・ウエアハウス」が、ユニクロの第一号店だ。終日入場制限するほどの混雑が続いた。一時は、金の鉱脈を掘り当てたような感触をもったものだ。翌85年6月には下関、10月には岡山市内で二店をオープンし、山陽街道を中心に店舗展開していく足がかりができた。そう思い始めた頃、僕の運命を変える一冊に出合った。
山口県の宇部市の書店にたった一冊置かれていた『プロフェッショナルマネジャー わが実績の経営』。

 この本が何冊売れたかは知らないが、僕が山口県で唯一の読者だったと思っている。それほど衝撃を受けた。一読して、「僕がやってきた経営は違う」「僕の経営は甘い」「経営するとはこういうことだ」と思わざるを得なかった。ジェニーン氏の経営論を読んで、僕の経営概念は180度変わった。
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私も先週読了したばかりだ。この本の著者ジェニーン氏がCEOに就任していた時代は、アメリカの国際競争力が低下し、日本の快進撃にあって自信が揺らいでいた時代だ。ゆえに例話などに今では違和感を感じる部分があるものの、この本の本質は損なわれるものではない。
経営者、マネジャーとは何をする人なのかを理解するまで、ボロボロになるまで読みたい本だ。

経営するということはどういうことか。

まず、経営のセオリーがどこかにあって、それさえ手に入れれば成功できる、という認識を捨てることだという。
「セオリーなんかはない」、ジェニーン氏はそう警告した上で、たった三行からなるルールを教える。

それが冒頭の「今日の言葉」だ。この言葉、いかにも単純だが深遠な真理がある。

来週も何度かこの本の内容について触れることになるだろう。

(7/8 新橋にて)