自己変革

倒産件数よりも廃業・休業・解散の方がはるかに多い

幾つかの大きな政治課題を前にして、安倍首相の口から「経済を立て直す」という力強い言葉が聞かれなくなった。大胆な金融政策で円安誘導し、輸出企業の利益を増大させた。また、デフレを脱却し、物価と株価、地価を上昇させるという「アベノミクス」の一端は成功した。しかし、三本目の矢に相当する、民間投資の拡大をともなう経済の成長戦略、というものが依然、見えないままである。大切な仕事をやり残したまま(丸投げしたまま)で、安部さんは別の政治課題に関心が移ってしまったように思える。

倒産件数が着実に減っている、と報じられているがそれは一面で事実である。年度別倒産件数は次のようになっているからだ。

・2008年 12,681件
・2009年 13,306件
・2010年 11,658件
・2011年 11,369件
・2012年 11,129件
・2013年 10,855件

しかし、「倒産件数」というのは事実の一面でしかない。中小や零細企業の場合、手形を発行していないことなどから強制的にゲームオーバー(倒産)にさせられることがない。だから、「うちの会社は手形を発行していないから倒産することはない」と胸を張っている社長もいるが、現実には、倒産よりも廃業や休業、解散などの件数の方が多いのだ。どの程度多いかというと、倒産件数の 2.6倍もあることが東京商工リサーチのデータで分かる。しかもその件数は年々増えているのである。

★2013年「休廃業・解散企業動向」調査 年間倒産の 2.6倍
(東京商工リサーチ)
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20140210_03.html

倒産件数は 1万件だが、廃業・休業・解散の件数は 3万件近くもあるということだ。

その理由はなんだろうか。

●今度は「2013年版中小企業白書」にある要因別倒産件数構成比を見てみよう。それによれば、倒産理由は

1位 販売不振 (70.7%)
2位 既往のしわ寄せ(10.9%)
3位 その他(7.8%)
4位 連鎖倒産(5.9%)
5位 放漫経営(4.7%)

となっている。

1位の「販売不振」とは、経営環境の変化や大口客との契約終了などによって売上高が急激に、もしくは、徐々に減っていったまま新たな販売増強策が身を結ばなかったことをいう。その結果、赤字転落し、二期三期続けて赤字決算し、銀行が見放し、資金繰りに行き詰まる。

これが倒産理由の 70%以上にのぼる。

2位の「既往のしわ寄せ」とは複数の要因でじわじわと企業体力が弱まり、倒産にいたることを言う。販売の不振が根底にありながら、在庫増、社員の離職、財務体質の悪化などが重なり、じり貧をたどっていくわけだ。これが倒産会社の 10%を占める。

3位の「その他」とは、金融機関との関係悪化や、在庫増大、過小資本、不良債権の増加などである。
4位の「連鎖倒産」とは客先が倒産し、売掛債権の回収が困難となって連鎖的に倒産することをいう。
5位の「放漫経営」とは、公私混同によって経理がずさんになり、社内の数字が信頼できなくなってしまうことをいう。いわゆる乱脈経理である。また、経営陣と社員との対立や、派閥抗争、乱脈人事などによって組織が内側から崩壊するのも「放漫経営」に入るだろう。

かつて、私が大好きな和菓子屋があった。週末になるとレンタルビデオを借りにいったついでにその店で「おはぎ」や「団子」を買うのが楽しみだった。あるとき、その店の主人(社長)とおぼしき人が店に来て、社員にだまってレジから数万円を抜いて出ていくのを見た。「大丈夫かな、この店」と思っていたら、案の定、半年もしないうちに倒産した。

明日の号では、どんな社長が会社を倒産させやすいかを考える。それは、会社を倒産させる前に自己を変え、経営を変え、会社を再生させる方法論でもあるはずだ。