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続・堀井学物語

(文中、敬称略)
堀井学ファンは全国にいるようだ。昨日号に対して各地から頂戴したメールより、二通をご紹介したい。

・・・ご無沙汰しております。東京の新島です。早速ですが、堀井選手。ぼくは長野五輪のときからですが、惹かれています。
確かキリンビールのCM、山下達郎のあの曲を頭の中に流すと、今でも涙がでてきそうなくらい気持ちが高ぶります。結果を出せなかった後、以前と比しては、けっして十分とはいえないスポンサードをなんとか獲得しつつ、お父さん(?)をコーチとして頑張っているドキュメンタリーも観ました。非凡会にご参加なさるなど、今もご活躍中のようで、とてもうれしく読ませていただきました。続きの内容を楽しみにしています。
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・・・こんにちは、北海道のWと申します。私も高校二年までスケート競技をやっていました。堀井選手は、私とは別格で雲の上のエリートだと思っていたのですが、全然違うということを知り、勇気がでてきました。できれば、機会があれば堀井さんの講演を聞いてみたいと思いました。
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さて、昨日号の続き。堀井講演のハイライト後半をお届けしたい。

・・・
念願かなって白樺学園に入学し、スケート部に入ったが、まわりを見ると自分よりすごい選手ばかりが集まっていた。気後れした気分のなか、監督のあいさつが始まる。「みんな、入学おめでとう。ところで、君たちの夢と目標は何だ。出したいと思っているタイムを紙に書いて部屋に貼っておくように」という訓示があった。

家に帰り、さっそくカレンダーの裏側に『43.0秒→40.0秒』と書いて貼りだした。一年間で3秒もタイムを早めようという目標だ。ちょっと欲張りすぎたかなぁ、と思っていたが、いつもこの紙を見ているうちに、絶対やるんだという気持ちに変わっていった。そして、一年生で40.0秒を達成。二年生でも同じように『38秒7』と書き、それを達成。三年生でも『38秒2』と書いてそれをクリアした。

白樺学園の二年後輩で、金メダリストの清水選手や、Fさん、Kさんなど世界で活躍した人は皆、先生の指導通りに目標を紙に書き、壁に貼って記録を達成している。ところが、そんな単純なことすらやらない選手もたくさんいたのは意外だった。

今でも忘れられないエピソードがある。それは高校一年生の時、大会で私が予選落ちした時だ。周囲で予選落ちするような選手はほとんどいない。部活のペナルティとして、先輩の道具運びはもちろんの事、歌ったり踊ったりしなければならない。それはもう、みじめな気分で宿舎に戻った。そのあわれな私の姿を監督とコーチが部屋から見ていたのだろう。
部屋に戻るなり電話があり、「今すぐ来い」と呼び出しがあった。

「お前みたいな選手はいらない。もう辞めろ」と言われるに違いないと思って覚悟して部屋をノックした。

入室するなり、監督から
「堀井、おまえは本当に悔しいのか」と聞かれた。緊張して足をふるわせながら、「はい、くやしいです」と答えるのがやっとだった。
すると監督は意外にも、
「おまえは、日本を代表する選手になるためにここに来たんじゃないのか?」と言う。予想外の言葉だ。
しかも、それに続いて
「堀井、一生懸命がんばれ、あきらめるな」
と言われた。

自分はダメだ、と思っていた矢先のこの言葉に感極まってお礼を言い部屋に戻ろうとした。すると、となりにいたコーチから、
「堀井、一生に風呂はいるぞ」と言われた。
風呂に入って、コーチの背中を流していると、
「おまえも反対になれ」と言う。
なんと、コーチが私の背中を流してくれつつ、こんな言葉を発して下
さった。

「堀井、おまえが一生懸命やっているのは、オレにはわかる。お前は特待推薦で入部したのではない。他の選手と同じことをしていてはダメだぞ。オレは、おまえに期待しているからな、あきらめるなよ」

私はブワーと涙があふれてきて、「絶対に早くなってやる」と心に誓った。
もし、あのとき
「おまえなんか辞めてしまえ」って言われたら、本当に辞めていたと思う。

・・・

堀井の講演はここで終わった。時間さえあれば、大学編や社会人編も聞いてみたい。2002年に現役を引退した堀井は、苫小牧に在住。講演活動、北海道教育局非常勤講師、白樺学園スピードスケート特別コーチ、SMIプログラム代理店「サクセス ダイナミックス 北海道」の代表取締役など、多方面にわたって活躍中。

こぼれ話

「堀井さん、金メダルの実況中継MDを作っていつも聞いていたって本当ですか?」と私は二次会の席で堀井さんに質問した。イメージトレーニングのためにプロのアナウンサーに依頼して世界記録で金メダルを取ったときの仮想テレビ放送を収録したというのだ。

「武沢さん、その話は本当です。普通は音楽を聞くなどしてリラックスするのですが、僕のMDは実況中継なんです。この中継を聞いて、なんど涙したことか」

良いと助言されたことはそれを信じてトコトンやる。おじいちゃんの教え通り、野球をめざし、横綱めざし、スケートをめざした。やる以上、てっぺんをめざした。お母さんの苦言にも立ち向かい、高校の監督・コーチの助言もすべて堀井は吸収した。素直で、とことん努力の手を抜かない天才だ、堀井の話を聞いて思った。

堀井学の実況金メダル
http://www.yomiuri.co.jp/hochi/olympic/feb/o20020202_30.htm

堀井学の本 「終わりなき挑戦―100分の2秒が人生を変えた」 
http://bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4906631975.html