「初めて見たとき、言葉を失うもの」
この言葉は、いろいろなものの定義に応用できそうだ。私達がニューヨークで観たミュージカルもそうだった。さて、先週訪問したボストン・ニューヨーク。その紀行文も今日でおしまいにしよう。
ニューヨークに着いて真っ先にやったこと、それはミュージカルチケットの手配だった。ヒルトンホテル内にあるチケットセンターにて『マンマミーア』か『ライオンキング』、無理なら『シカゴ』と頼んだところ、陽気な彼が踊るふりをしながら、
「I think 『42ND STREET』 is the best for you.」という。
私も高一の娘も恥ずかしながら『42ND STREET』なるミュージカルなど聞いたことがない。内心で、「なんだそれ?」と思いながらも英語が思うように出てこない。彼があまりに熱心なので、結局言われるがままに、今夜のオーケストラシート二人分として210ドルを支払うことにした。
「娘よ、すまない。希望のミュージカルを買ってあげられなかった。それどころか、お父さんは人気のないチケットを買わされたのかも知れない。でも失望するんじゃない。もしつまらなかったら、またあした、違うのを見れば良いさ」となぐさめた。
多分に、自分に言い聞かせていたのかも知れない。
ところが、その夜観た『42ND STREET』に娘も私も大ハマリ。100点満点中、150点の大満足だったのだ。ホテルまで歩いて戻りつつ、娘がつぶやいた。
「お父さん、明日もあさってもミュージカルを見たい。買い物時間がなくなっても空港の免税店で充分なので」
あれほどニューヨークでの買い物を楽しみにしていた娘の発言に、私も乗せられた。「よし、この際、そうしよう!」
結局、翌日は『マンマミーア』、翌々日は『ライオンキング』を観た。いずれも大満足ながら、あえて採点すれば、
・『42ND STREET』 150点
・『マンマミーア』 90点
・『ライオンキング』75点
というところか。
不思議なことに、チケット入手困難度でいうと、この順序が逆転するらしい。私たちの英語理解力の不足がそうさせたのか、あるいは、席の良し悪しがそうさせたのかも知れない。だが、間違いなく『42ND STREET』は素晴らしい作品だった。
台本と脚本、歌、踊り、演技、衣装、舞台作り、照明、音楽と音響、それに劇場の作りやオーディエンス(聴衆)のすべてが高い水準で一体化したとき、再現不能とも思える感動が生まれる。
『42ND STREET』には、幕があがって3分後にすでに興奮している自分がいた。クールダウンしては興奮し、またクールダウンしてはボルテージが上がる。そのくり返しで2時間半後にはこみ上げてくる感動によって娘の声も裏返っている。
彼らの競争相手は無限にあるだろう。ライバルは他の劇場や、他の俳優だけではないのだ。野球観戦もあれば、バスケットもある。フットボールもあれば、ディナークルーズもある。流行の和食レストランもオシャレなバーも、みんなの目が肥えている。そんな中で聴衆に足を運ばせ、ショービジネスを成功させる彼・彼女たちのすさまじいプロ意識には見習う点が多い。
会社経営とは、ショービジネス。会社の社長とは、ショービジネスのスター俳優 兼 名演出家。店舗や営業所、オフィスは劇場であり舞台だ。