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続・バラ色の死角

「アンカリング」という言葉がある。船が漂流しないようにアンカー(いかり)を降ろすように、人が無意識にもってしまう基準値の存在を「アンカリング」というのだ。

たとえば、過日、四人の方に対してこんな実験をしたのでご紹介しよう。

会社の電話番号の下四桁の数字を尋ね、名古屋の医者の数がそれより多いか少ないかを聞いた。そして、名古屋市内に医者が何人いるのかを勘で当ててもらった。その結果は次の通り。

    電話番号  多いか少ないか  医師数予測
A氏   5963      多い      2万人
B氏   5180      多い      6千人
C氏   4300      多い      5千人
D氏   2661      多い      3千人

標本数が少なくて正しい統計とは言えないが、電話番号の数と、医師数の予測には明らかに相関関係がある。
最初に質問した電話番号の数が「アンカリング」になっている可能性があるのだ。

※ちなみに、名古屋で医師会の会員になっている数は、3,100人程度

経営の現場においては何がアンカーになるだろうか。

・前年実績というアンカー
・前任者からの引き継ぎというアンカー
・過去の経験というアンカー
・業界平均というアンカー
・他社事例というアンカー

そうしたアンカリングの結果、このような判断をしてしまう。

・生産性が1000万あれば優秀だ
・メルマガ読者が5千人もいればスゴイ
・ROE(自己資本利益率)が20%あるから合格だ
・etc.
これらはいずれも「アンカリング」によって自ら無意識の天井を作ってしまう行為だ。

「アンカリング」によって甘い見通しをもってしまうこともある。昨日に引き続き、「ハーバード・ビジネス・レビュー」2003年12月号65ページを参照してみよう。

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マネジャーと部下があるプロジェクトについて予測する際、通常、彼らの手元にはその計画を提案した人物やチームが作成した事前計画があり、そこから出発することになる。市場調査や財務分析、あるいは専門家の判断に基づいて、この事前計画に手直しを加えたうえで、計画を進めるかどうか、またどのように進めるかを決定する。
 これら一連の直感的な手順は、一見当たり障りがないように思えるが、実は重大な落とし穴がある。というのも、事前計画は良い面を強調している場合が多い。その性格上、プロジェクトの正当性を訴えるように書かれているからだ。それゆえ、その後の分析も過度に楽観的な方向に引っ張られてしまう。
・・・

これも立派な「アンカリング」の悪影響なのだ。


ではどうしたら良いのか。
アンカリングの悪影響を最小限にとどめるには、まず、意思決定の根拠を明確にすべきなのである。新しい挑戦をする際には、「イケそうだから」「何とかなるだろう」という理由で始めるのではなく、「こうした根拠からこれだけの成果が期待できる」と文書にした上で実行に移す。そして後日、事前予測と実績との誤差を客観的に評価するのだ。

自らと部下が、どの程度の予測信頼性をもっているのかを調べよう。

もちろん、予測以上にうまくいく場合もあれば、まったく予測がはずれる場合もある。その平均値をとっても意味がないのだが、こうした訓練を通して予測や目標の精度を高めていこうとする意識が芽生える。

いつも同じように漫然と目標と実績の誤差に悩んでいるだけでは成長はない。「プラン→ドゥ→チェック」のチェック機能を高めることによって、目標との誤差を縮めていくことが可能となり、それが会社全体の計画経営力を高める源にもなるのだ。

ダイヤモンド社 「ハーバード・ビジネス・レビュー」
http://www.dhbr.net/