ある有名なコンサルタントの A 先生 が、ラグビーというスポーツの批判をした。多少、お酒が回っていたせいもある。最近のサッカー好きが高じてラグビー嫌いが助長された面もある。「あんなのはスポーツと言えないね。だって考えてもみてごらんよ…」約 3分間におよぶラグビー批判のあと、幹事が A 先生にビールを注ぎにきた。
そして幹事は A 先生にそっと耳打ちした。「先生、右斜め前の男性は現役のラグビー選手です。高校生のときから今にいたるまでラグビーひと筋の方で、将来は指導者になるための勉強をしておられます」
その後の A 先生は変わり身が早かった。「さっきはラグビーのことを何にも知らない不肖、私のつまらぬ意見でしたが、この席には現役バリバリのラガーマンがいらっしゃるそうだ。ラグビーの魅力についてちょっとお話し願えないだろうか?」
ラガーマンはさすが、スポーツ選手だった。いっさいの悪びれた様子も見せず、ラグビーの魅力を簡潔に語った。それを聞いて A 先生は「素晴らしい!私は今日から宗旨替えをする。ラグビーこそ男のスポーツだ。フットボールの原点がそこにある」とものの見事にラグビーファンに変わったという。
私はその場に居合わせなかったが、幹事からその話を聞いて特定のスポーツの悪口を言うのはやめようと心に誓った。ところが……。
ある食品スーパーの幹部会議が終わり、社長の車で私を送って下さることになった。スーパーの店先には今が旬の野菜や果物が並び、季節を感じさせていた。
「社長、今はスイカとトマトなんですね?」
「そうです。トマトは一年中いろんな産地で取れますが、この時期は夏トマトが最盛期を迎えます」
武:トマトってそんなに売れるのですか?
社:ええ、売れます。トマトが売れ残ることはないですね
武:そうなんですか。うちは息子も私もトマト嫌いでしてね、滅多にかみさんも買ってきませんね
社:え、そうなんですか?熟したフルーツトマトなんかトマトが嫌いの方でも喜んで召しあがりますよ
武:フルーツトマトとは言ってもトマトと名乗っている以上は私の口に入ることはありえませんね
社:奥様はトマトを召しあがるのですか?
武:ええ、うちでは家内だけがトマト好きですかね。他の者は一切、口にしません
20分後、私の自宅前で車は止まった。
「社長、わざわざありがとうございました」と私が御礼を言うと、社長は後部座席から梱包された野菜を私に手渡した。
「うちのイチオシ野菜のひとつなんですが、ちょっとあれですので奥様に召しあがっていただけたらと思います」と社長。
なんだかバツが悪そうな顔をしておられる。私は御礼を言いながら箱の印字をみた。今度はこちらの顔が赤くなってしまった。「イエローミニトマト」と書いてあったのだ。「黄色くなるころが食べごろで、糖度が高くて美味しいのですぐに売り切れてしまう」と社長。私が「いやぁ…」と口をにごすと、「先生のお口にはあわないと思いますので奥様に……」と社長。
スポーツだけでなく、食べ物に関しても特定の何かの悪口を言うと気まずいことになるという教訓。