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事業家としての付加価値

Rewrite:2014年3月26日(水)

50年輩の経営者・阿波野さん(仮名)にお会いした。共通の友人があることから、30分という時間をさし上げた。
彼の話は、携帯電話を使った事業の中部地区代理店を始めたので手を貸してほしいと言うものだった。アイデアがユニークで、思わずうなるような機能があって面白い。この代理店事業の本家は九州にあり、数年以内にはメジャーな会社になるというふれ込みである。

「武沢さん、この事業に参加してくれませんか?今なら一次代理店として60万円の投資で済む。やがて一次代理店の募集が締め切られると二次代理店になってしまい、投資額も120万に増える。ぜひ一週間以内に決断してほしい」
いつのまにか事業の売り込みにあっていた。

「阿波野さん、手を貸してほしいというのはそういうことでしたか。私は特定事業への肩入れはしないようにしていますので、コンサルタントの立場で応援できることはさせてもらいますから」と申し上げた。

すると阿波野さんは「武沢さん、そんな話じゃない。あなたは今、決断してお金を振り込むだけでよい。権利を買うのですから活動はしなくて良いのです。半年後には毎月投資額以上の利益が入ってくるはずです。いかがでしょう、すごいビジネスチャンスなのです」

私はこの際、きっぱり言うべきだと思い、
「残念ですがご縁がなかったことにして下さい。ご活躍は見守らせていただきます」と言った。

言い方が甘かったのかもしれない。阿波野さんは話題を変えた。
「ところで武沢さん、アメリカからわたってきたN社の新事業をご存知ですか?こっちの話はスケールが大きい。あのマイクロソフトも富士通もニフティも参画しているビッグプロジェクトがあります。11月に日本上陸で、この半年がビッグチャンスです」

これもお断りすると、今度は高速道路の料金割引プレートの話が飛び出した。さすがに私でも声を荒げてしまった。
「いったいあなたは何をしたいのですか!」阿波野さんには即刻お引き取り願った。

三つの提案をされた。ひとつひとつの話はきちんとした事業であり、成功する可能性があると思う。だが、お一人でこの三つの事業に手を染めている阿波野さんという事業家には成功の可能性を感じることが出来なかった。ビジネスとは「機に乗じて利益を得る行為」ではないはずだ。それは投機という。

事業家は付加価値を創造することによってはじめて利益が得られるはずだ。この場合の阿波野さんは、事業家というよりは投資家であったわけだ。最初から「投資話があります」と言ってくれたら、お互いに気まずくならずに済んだものを……。

経営者は事業家らしくありたいものである。