ある業種に特化した経営コンサルタントの F さんは全国に顧問先がある。それに加えて講演や研修の依頼があとを絶たない人気ぶりで、業績も絶好調。名古屋の本社オフィスには 10数人のスタッフがいて顧問先の業務をサポートしている。
「4月から 12月は多忙でなかなか勉強できないが、毎年この時期だけはじっくり勉強できる」と F さん。昨日は「がんばれ!社長」の本気講座(人材育成編)を受講された。
休憩のとき、F さんがカバンから何冊かのノートを取り出して念入りに読み出した。何かがびっちり書き込まれているようだ。気になったので尋ねてみたら、社員との「交換ノート」らしい。
10人以上いるスタッフの多くが女性。その労務管理対策に「交換ノート」を活用しているというのだ。
F 社流の「交換ノート」システムは、毎月一回(第二月曜日)にノートを提出してもらう。それにコメントを付けて本人に戻すのは第四月曜日と決めている。ちょうど給与明細を貼り付けて戻せるからだ。
基本的にノートには何を書いても良いが、時には課題を与えることもある。先月は月刊『致知』の最新号のなかから、五つほど Fさんが質問を出した。それに回答するためには、『致知』を読む必要があるのだ。
あえてこう聞いてみた。
ノートではなく Facebook などのデジタルコミュニケーションの方が便利じゃありません?
すると F さんは、私にある人のノートを開いてみせてくれた。
「武沢先生、この青ボールペンの文字をご覧下さい。ある女性スタッフのものですが、今月のこの元気な文字は誰がみてもやる気が伝わってくるものですよね」
「ええ、たしかに力強いし、びっちり書かれてます」
「そうでしょ、しかし同じスタッフのこのページは半年前のものですが、”社長、もう辞めたい”とだけ書いてある。文字だって別人のように弱々しい」
「本当ですね」
「でも彼女の文字をよくみると、”もう辞めたい”は、辞意ではなくてヘルプミーだと思ったんです。だから次の日、すぐにパワーランチに誘って話を聞いた」
「なるほど、文字のニュアンスを読み取れるのはアナログならではですね」
交換ノートを続けるためには、社長からのコメントが大切だと F さん。社員が 20行書いてきたらこちらは 21行という具合に少し多めに返答すると社員も翌月多めに書いてくれる。もし社長が短いコメントしか返さなかったら、社員もだんだん短くなるそうで、細かいことではあるが重要なことだという。
目にみえた成果はないが、定着率や業績にもかならず良い影響を与えている、と F さん。最後にこんな質問をしてみた。
「出張が続くときなどは、コメントを返すのが大変ではありませんか」
「いえいえ、私の場合はたかが 10数人ですから知れてますよ。私が尊敬しているある経営者の方は 50数人の社員に対してそれをされています。”交換ノートのやりとりこそ社長の仕事です”とまでおっしゃっています。その通りだと思いますから、大変だと思ったことはありません」
なるほど、「交換ノートこそ社長の仕事」。許可を得てノートの雰囲気を撮影させていただいた。こちらの Facebook にアップしたので関心のある方はご覧いただきたい。
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