経営者へのコーチングを仕事にする小沢善三郎(仮名)はマリンスポーツが大好き。昨年は一ヶ月のバカンスを四回取ったが、その大半を海ですごしたほどである。
そんな小沢がひょんなことからゴルフの大会に出ることになった。
「エッ、僕がゴルフ?」と最初は辞退したが断れない事情もあって、「一回かぎりですよ」と参加を決めたのだった。
誘ってくれた A 社長は平均スコア 90の中上級者。小沢はハンデ 50をもらってチョコを賭けることにした。だが案の定、その日の小沢のスコアは 188と散々なもので賭けに負けた。大敗といっていい。負けず嫌いの小沢ゆえ、本来なら懲りるはずだが、小沢は新しいオモチャを手に入れた子供のように「ゴルフってサイコー!」と叫んでいた。
ラウンドのあとの懇親会で小沢は言った。
「A 社長、半年後に僕ともう一回ラウンドしましょう。その時のハンデは 50も要りません。10もあれば充分です」半年あれば 188のスコアを 100に縮めてみせる自信があるという小沢。
目標達成の方法論を教えるのが本職の小沢。ゴルフを始めて半年で100を切ることは不可能ではないはずだ。
だが、A 社長は冷やかすようにこう言った。
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小沢君ね、ゴルフの世界にはこんな名言があるのを知ってるかい?
・100台はゴルフをおろそかにしているゴルファー
・90台は家庭をおろそかにしているゴルファー
・80台は仕事をおろそかにしているゴルファー
・70台はゴルフ以外のすべてをおろそかにしているゴルファー
何かを犠牲にする覚悟がなければ半年で 100を切るのは困難だよ。
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そのとき小沢は黙っていたが内心こう考えていた。
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家庭も仕事も犠牲にせずに半年で 100を切ることが必ずできるはずだ。そのための方法論が必ず存在するはずなので、それを見つけることが先決だ。
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なにはともあれ半年後にもう一度ラウンドすることに決まった。その時のハンデは 10であることも決まった。
その日から小沢の格闘が始まった。
目標は明確だ。
「2013年 3月末日までにゴルフで 100を切る。仕事も家庭も犠牲にせずにそれをなし遂げる」
そのためにはどんな方法論が自分に合っているだろうか。小沢は得意の英語を駆使して世界中のサイトを調べた。目的は、最短で 100を切る方法をさがすことだ。そのリサーチだけに数日を費やした。
翌日のことである。アメリカのあるプレイヤーがすごい記録を残しているのをサイトで発見した。それは「すべてのコースで可能性があればホールインワンを狙う」という挑戦だった。
par3 のショートコースでホールインワンを狙うのなら理解できる。だが、par4 でも par5 でも可能性があれば構わずピンに向かって一直線に攻める。本気でホールインワンを狙っているので、風を読み、グリーンの傾斜や芝目まで計算に入れて打つ。一打で入らないことを確認したら二度目からは普通に攻める。その結果そのプレイヤーに何が起きたか。
優勝記録こそ少ないが、ホールインワンの数ですごい世界記録を作っていたのだ。
彼の名はカリフォルニア出身のノーマン・L・マンレーで、生涯記録59回というホールインワン数を記録している。
1979年には年間 4回を達成。1964年 9月にはデルバレー・カントリークラブで、7番ホール(330ヤード)par4 でホールインワンを達成。その次の 8番ホール(290ヤード)par4 でもホールインワンを記録、つまり par4 のコースで連続ホールインワンという離れ技をなし遂げているのだ。偶然で出来ることではない。
ゴルフ発祥時のルールはマッチプレイ。1ホールごとに誰が最短で上がるかを競うシンプルなゲームだったが、何年かして今のストロークプレイが採用された。ストロークプレイで勝つためにはスコアリングナレッジ(なるべく少ないスコアでホールアウトするための知識)が必要となる。
小沢はいろんなホームページを調べるうちに自分のゴルフの方向性が分かってきた。それは、「なるべく早く 100を切るためのゴルフ」をマスターするのでもなければ、「ホールインワン記録に挑む」ためのゴルフでもない。その中間にもっと革新的な方法論があることを見つけたのだ。その方法論を使えば、半年後には A 社長にハンデ 10で勝てるはずだと確信がもてた。