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永平寺にて

かなり前から「永平寺にお参りしたい」と Wish-List に書いてあったが、なかなか機会が作れず、「ここは力ずくで行くしかない」と決断した。冬の灯籠祭りにあわせて行こうと、行ってみてはじめてわかった。去年も一昨年も灯籠まつりは積雪過多のため中止だったらしい。今年は例年よりも積雪が少なく、三年ぶりの祭り開催とあって永平寺の修行僧も、門前町の関係者も喜んだことだろう。

今年は 2月22日(金)から三日間かけて行われた冬の灯籠まつり。観光客がドッと押し寄せるというよりは、永平寺と地元の人たちが一緒に行うひっそりしたイベントというに近い。
私は 23日(土)の午後 2時に門前の宿に入り、荷物をおろして永平寺にお参りした。スリッパを履いて参拝者用のルートを歩くのだが、手足が凍り付くようにつめたくなる。

ざっと一時間で寺内の見学コースを見て回った。永平寺は修行僧のための修行道場である。何年もの修行を経てはじめて寺を任される僧侶になれる。座禅や作務(さむ、清掃作業)だけが修行ではない。洗面、トイレ、入浴、食事、睡眠、すべてが修行である。修行であるからには厳格なルールがある。

永平寺には常時若い修行僧が 200人以上いて、厳格な修行生活を続けている。時々、高齢の修行者も混じる。高齢だからといって特別待遇されることはない。なぜなら、世俗での経験や実績などはすべて山門の外に置いてきているからだ。

そうした厳しい修行道場の雰囲気に当てられて、私は身体の芯まで凍えてしまったようだ。宿にもどって「お湯がわいてますよ」とおかみさんに言われ、風呂をいただいたが身も心も熔けていく気がした。食後にふたたび永平寺へ。夜 6時から灯籠まつりが行われるからだ。7時からの法要は圧巻で、修行僧数十人が巡回しながら般若心経を読み上げる。その前で一般参列者が焼香するのだ。

二日目(日曜日)は朝のお勤めに参列した。

午前 5時50分に集合し、6時過ぎから行われる勤行に参列してお焼香できる。厳しい作法にのっとって行われる勤行は緊張感に満ちていて、すごいものを見てしまった、という荘厳な気分になる。

その後、接待専門の修行僧が寺内を案内してくれた。一昨年まで大学生だったその修行僧は背も高いが体重も多そうだ。

「厳しい修行生活でよくその体型をキープできますねと参拝客の方に言われますが、山門を叩いたときには 120キロあった私が特別な減量努力もせずに 90キロに減ったのは修行のおかげだと思います」と笑わせた。

永平寺は基本的に檀家を取らない。唯一、岩崎さんとおっしゃる檀家の位牌が永平寺の仏堂にあった。その岩崎さんとは、なんと三菱グループの創始者の岩崎弥太郎さんで、膨大な寄進をしたらしい。

カーンと木版の音がした。ちょうど、若い修行僧が入門を乞うために山門に勢揃いしたようだ。外は雪、そこで何時間も待たされる。修行僧たちがかぶる”網代笠”(あじろがさ)の縫い目からは寺内の様子がみえる。だが、寺内のあちこちから自分たちも見られていると思うととても目を上げられない。ひたすら外で二時間立って待つ。

先輩僧が表れて、入門を願うなら一人三回、木版を打つように言われる。修行僧にとって、入門願いの木版を打つ機会は一生に一回しかない。全身全霊を込めて打つ。その打ち方、音色は人によって千差万別というから面白い。