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道徳論とリーダー

たまに酒場に顔を出すと「お客さんはいつもニコニコされてて穏やかですね」とお店の人に言われることがある。「いや、そうでもないよ」と言いながらも、たしかにニコニコしている。

だが家族の者は決して私のことを「いつもニコニコしている」などとは思っていないはずで、おそらく、ワガママな激情タイプと思っていることだろう。ワガママが許される場所では喜怒哀楽がおもてに出やすくなってしまう。

フランスの哲学者・アランは、「もし道徳論を書くようなことがあったら、私は『上機嫌』を義務の第一位におくだろう」と語っている。そういう点では私は失格で、もっと上機嫌であり続けられるように修行を積まねばならない。

では、「社長も上機嫌であることが一番大切か?」と問われれば、私は「否」と返答したい。ビジネスやスポーツのリーダーが上機嫌であることは大切なこととも思えない。むしろ、いつも不機嫌か喜怒哀楽が表に出るほうが部下からみれば分かりやすいのではないだろうか。

「皆でアメリカに行こう!」と言い続けた侍ジャパンの山本浩二監督にとって、アメリカ行きこそ自分が果たすべき最低限の責任だったことだろう。ヨーロッパも中南米も強くなっている野球。そんな中で三連覇するのは至難の業。だから、チーム結成から一貫して「アメリカに行こう!」(ベスト4に残ろう)と言い続けた。

東京ドームでオランダにコールド勝ちをしてアメリカ行きを決めたあと、山本監督は満面の笑みを浮かべながら「よくやった、本当によくやった」と興奮気味に語った。それは目標を達成した人の顔だった。ここから先はご褒美の冒険である。案の定というべきか、ランキングでは下位のプエルトリコに負けた。

三連覇という大きな目標に向けて選手を鼓舞し、勝つためには非情な采配や辛口の発言もしてほしかった。

だが、敗戦後の監督会見では、負けた悔しさや優勝を逃した悔しさよりも、「満足している。反省点はそんなにありません」とすがすがしく語った山本監督。

むしろ、監督会見では三連覇を逃した悔しさと責任を語ってほしかった。それを聞いて周囲が「でもよくやったぞ!」と言ってやりたかったのだが、当事者のリーダー自らが「よくやった」と言っているようでは賛辞を送りづらい。

★「よくやった」
http://www.sanspo.com/baseball/news/20130311/npb13031105050002-n1.html
★「反省点はそんなにありません」
http://hochi.yomiuri.co.jp/baseball/npb/news/20130319-OHT1T00175.htm

ここまで書いてきたが、今日は山本監督批判が目的ではない。むしろ山本監督のおだやかで優しい人柄こそ人間関係の中では特上のものだと思う。だが、それがチームを強くするリーダーの資質とイコールであるわけではない。

昨日付けで退任した山本監督の後には、どんなリーダーが監督をつとめるのか注目したいものである。