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人的要因による経営の失敗

成功事例と失敗事例。集めていて楽しいのは成功事例だし、セミナーなどでも話しやすい。ところが時々、「失敗事例を聞きたい」という人がいる。先日のセミナーでもそう言われたので、「なぜ?」と理由を尋ねてみた。質問者曰く、「人様の成功話を聞いていてもどこか別世界の話を聞いているようだし、嫉妬もあって楽しくない。その点、失敗話は聞いていて”バカだなぁ”と思いつつも、俺は決してそうしないぞ、と “素直” に学習できるから」という。

それが”素直”と言えるかどうかは別にして、私はこんなことを申し上げた。

「成功例も失敗例も、集めるだけでは意味がない。たくさんの例の中に隠れている本質を抽出し、それを自分に活かすことによってはじめて学習が活きる。もし失敗例の方が素直に聞けると言われるのであれば、失敗を学問にした「失敗学」から学ばれるのも一法でしょう」

「何かオススメの本はありますか?」と質問者。そこで、私はこの本をご紹介することにした。『起業と倒産の失敗学』(畑村洋太郎 著、文芸春秋)
→ http://e-comon.co.jp/pv.php?lid=3570

「失敗学」と言えば畑村教授だが、この本の最大の功績は、ベンチャービジネスの経営者が陥りやすい失敗を体系化した点にある。株式を公開したり、賞を得て華々しく注目されたり、マスコミの寵児になったりした会社がどうして倒産していったのかが事例付きで学べる。

とりわけ、29ページにある図表が圧巻だ。「失敗における人的要因」と題されたその表で、経営者が個人的につまずくであろう様々なトラップ(罠)を知ることができる。それがこちらだ。注釈は武沢が勝手に付けたもので畑村教授のものではない。

<失敗の人的要因>
1.欲得
ア.地位・・・・・社会的な地位に目がくらむ
イ.経済的・・・・利益や報酬に目がくらむ
2.気分
ア.高揚・・・・・私は何でもできる
イ.沈潜・・・・・何をやってもダメだ
3.うっかり
ア.看過・・・・・え!そんなことあるの?
イ.忘却・・・・・あったっけ?
ウ.誤判断・・・・しまった、左だった
4.考え不足
ア.浅慮・・・・・いっちゃえ
イ.無思慮・・・・何も考えてませんでした
5.決まり違反
ア.手抜き・・・・これぐらいはいいだろ
イ.無視・・・・・そんなの関係ない
ウ.無知・・・・・知りませんでした
6.惰性
ア.思い込み・・・いままで通りやればいいんだよ
イ.行きがかり・・ここまで来たらやるしかない
ウ.習慣・・・・・いつもこうだから

エ.性癖・・・・・そういうの嫌い(苦手)だから
7.恰好
ア.体面・・・・・みんなが見てるから
イ.ええ恰好・・・さすが!って言われたい
8.横着
ア.手抜き・・・・たまにはいいさ
イ.責任転嫁・・・あれだけ言っておいたのに
9.思い入れ
ア.生き甲斐・・・俺、これに賭けてるんだから
イ.使命感・・・・私がやらねば誰がやるの
10.自失
ア.未知遭遇・・・今まで私に「撤退」「縮小」の文字はない
イ.無判断・・・・現場で起きてることの意味が分からない

「1」から「10」までのパターン別に倒産例が載っている。そのなかには経営再建中の会社もあれば、完全に世の中から消滅してしまったものもある。失敗の事例集だから決して愉快な本とはいえないが、良薬口に苦しともいう。