昨日、読売ジャイアンツの小笠原選手がサヨナラホームランを打った。昨シーズン末の契約更改で野球協約で定められた減額制限( 1億円以上で上限 40%)を上回り、プロ野球史上最大減俸となる 3億 6千万円減の 7千万円でサインした。「おおかたの予想はしていた」と本人は言うが、並々ならぬ決意をもって今年にのぞんだことだろう。
だが、春先の怪我。チャンスをもらっても結果が出せない。そんな日々のなかで、ようやく打てた。久しぶりにヒーローインタビューで「思い出しました」と第一声。ホームランの感覚、ヒーローの感覚をしばらく忘れていたのだろう。このまま自分はプロ野球選手としての選手生命を終えることになるかもしれない、という恐怖心もあっただろう。
「まだ一本打っただけですから」と本人は気持ちを切り換えていたが、今後の活躍を期待したい。
私はそんな小笠原選手の復活劇をみていて、サラリーマン時代の先輩、W 部長を思い出した。W 部長は当時 35歳、私は 27歳だった。新卒採用を始めたばかりの会社で圧倒的に 20代の社員が多かった。35歳以上は W 部長をはじめ 10人ほどだった。
そんなある日、私は人事異動で「エデュケーター」に就任した。辞令をもらっても意味が分からず「どんな仕事をすれば良いですか」と社長に聞きにいった。
「まず、このセミナーに参加してきてくれ」と一枚のチラシを渡された。『エデュケーター養成セミナー』とある。エデュケーターとは、リクルーター(採用専門職)と並ぶ人事のスペシャリストのことで、人材育成を専門に行う仕事である。
夜行バスで東京入りし、会場に入った。すでに全国のチェーンストアから 100名ほどの人事関係者が集まり、開講を待っていた。定刻ジャストに講師が登壇し、まず受講者に問いかけた。
「エデュケーターの使命は何か?」
私はエデュケーターになったばかりで、答えが分からない。むしろそれを学びにここまで来たわけだ。
・社員を教育する仕事なのか
・教育的な社風をつくることなのか
・社員の手本になって学ぶことなのか
いろいろ考えたが、結局すべて不正解だった。チェーンストア指導の第一人者である講師は素っ気なくこう言った。
「エデュケーターの使命は ”肩たたき” である」
私は衝撃を受けた。いきなり”肩たたきが使命だ”と聞かされ、驚かない方がおかしい。最も自分に似合わない仕事かもしれない、と思ったが、私が直接社員を解雇することではないようだ。
約束やルールを守れない人、守るつもりがない人を組織から排除する。本人がいたたまれなくなって辞めていくような職場規律を作ることがエデュケーターの仕事だと言われた。そして社風改革に対して誰よりもラジカル(過激)な存在であらねばならない、とも言われた。
実はそのあともセミナーは一日続いたのだが、このオープニングの数分だけを鮮明に覚えていて、あとのことは記憶にない。とにかく会社に帰ったら、新しい規律や基準を作っていかねばならないと思った。
帰社後、そのできごとを社長に報告すると社長は無言でニヤッと笑った。
その笑顔の意味は、私が誰よりもラジカルであることにお墨付きを与えるものだと思った。そしてラジカルな人事制度を次々に作っていった。
詳しいことは省くが、要するに高い規律をつくり、それを守るようにした。時間や納期を守るのが当たり前、やると言ったら必ず実行するのが当たり前、出張やセミナー受講をしたらレポートを書くのが当たり前・・・。そうした当たり前のことが当たり前のようにやれる人だけが中堅幹部や経営幹部になれる。それができない人はできるようになるまで幹部になることはできないし、今あるポストも剥奪される。
年齢や社歴よりも規律を重んじるように変えていった。規律が保てる人が心地よく働ける職場を作ることが肝要なのである。
そうなると、立場の上下逆転がおきる。