昨日のつづき。
7年前、映画『デスノート』にヒントを得て、みずからの営業成績を上げるために『クロージングノート』を作った子安恒夫君(仮名)。今年で 29歳になるが、当時は社会人一年生の営業マンだった。
子安君は人前で話すことはかなり上手に出来るのだが、押しが弱い。あと一歩というところで遠慮してしまい、適切なタイミングでクロージングすることができない。自らの営業成績の不振はひとえに、
・クロージング率の不足(クロージング技術の不足)
・クロージングに対する信念の不足(心構えの不足)
の二点にあると認識していた。そこでクロージング率向上のためにリングバインダーを購入したのだった。
新入社員のころのクロージング率は 15~ 20%だった。それが今では60%を超えるようになったわけだが、このノートなくしてはなし得ない成果だったという。
その子安君の 7年前のクロージングトークは次のようなものだった。
「○○さん、今日はお話しを前に進めるためにこんな書類を持って参りました。ご注文書です。よろしければこちらに必要事項をお書きいただき、正式なお仕事として責任をもってやらせていただきたいと思います。いかがでしょうか。そろそろよろしいでしょうか?」
すでに家を買う決心をしていて、子安君から買うと決めていた人はサインする。しかし、まだ何も決心していない人はサインしない。そのあたりのタイミングを計るのが難しいし、クロージングトークにもキレがない。
そこで子安君が最初に取り組んだことは、効果的なクロージングトークの開発である。
多くの見込客はみずから進んで「買います」とか「契約したい」とは言わない。こちらから上手に誘導してあげる必要があるし、何らかの決断の補助を必要としている場合も多い。営業マンがその補助役を買ってでる必要があると考えた。
たとえば、長期ローンの返済に不安がある人に向かっては、こんなトークを用意した。「今でもすでに○万円の家賃を長年にわたって払っておられますね。その家賃にわずか△万円プラスするだけで、念願のマイホームが手に入るのですよ。多くのご家族が皆さん同じように最初は不安をお持ちですが、家族が力をあわせてやってゆけば何とでもなるものです。しかも住宅はお子様にも孫の世代にも残せる資産になるのです」
こうしたトークを『クロージングノート』に書き込んでいった。
先輩社員にも聞いてまわり、たくさんのトークを集めた。この作戦はそれなりの成果が上がり、クロージング率は 10ポイントほど改善したが、劇的な効果とは言いがたいものだった。クロージング率が 3割以上には上がらないのだ。
そんなある日、子安君は「話す前に相手の靴を履け」という言葉を他支店の先輩から聞いた。
意味がよく分からなかったが、とても大切な教えのような気がした。そこで、その夜、親しい友人に頼んで彼の靴を実際に履かせてもらうことにしたのだった。
<つづく>