「心配するのが社長やから、もし心配するのが嫌やったら、社長辞めたらええんや」(松下幸之助)
「心配するのが社長だけど、心配するテーマと心配の仕方はよくよく吟味したほうがよい」(「がんばれ!社長」)
昨日のつづき。
大垣の未来工業株式会社(名証 2部上場)は電設資材メーカーで、独自製品が多く高利益率を誇る。残業ゼロ経営、”報連相”不要など、ユニークな経営でも知られている。
創業者の山田昭男相談役の著書『日本一社員がしあわせな会社のヘンな”きまり”』に次のようなくだりが出てくる。(文責:武沢)
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未来工業では会社を作ったときから経理は奥さんではなくひとりの女性を事務員として雇った。そしてすべてをその事務員に任せてしまった。銀行が来たときには「30万貸して」「50万貸して」という具合にその事務員がいうと簡単に貸してくれる。会社の規模が大きくなってくると、「300万貸して」「600万貸して」と事務員が言う。さすがにその金額になると銀行の担当者も幹部から了解をもらってからでないと貸さない。その後は「3000万」「4000万」という金額になったので元銀行員を呼んできて総務部長に据え、そういう仕事を担当させた。社員にすべてを任せるとはそういうことだよ。
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★『日本一社員がしあわせな会社のヘンな”きまり”』(山田 昭男著)
⇒ http://e-comon.co.jp/pv.php?lid=3707
部下のキャパが一杯になるまで任せる、というところに山田流人づか
いの真骨頂があるようだ。
あるシステム開発会社の社長も同様の考えで資金繰りを部下に任せている。経営計画書に「資金繰りは社員の仕事である」と明記し、開発課長が資金繰りの責任者になっているのだ。(開発部長は役員なので)
毎月はじめに経理から今月の支払い予定が開発課長に知らされる。
社員は数十人いる。毎月の固定費はほぼ決まっていて、賞与支給月だけが少々増えるが、あとはほとんど変わらない。今月の 10日、20日、末日、それぞれに幾らの現金支払いがあるかを把握した開発課長は、「開発会議」を月 2回招集する。その実態は「資金繰り会議」に近く、営業社員も出席する。だが三人の役員は社員の自立をうながすため、だれも出席しない。
この会社では、システム開発の受注をすると「A」「B」「C」 の三段階で発注者から入金をもらう。
A:受注時(売上の 30%)
B:中間納品時( 〃 40%)
C:最終納品時( 〃 30%)
この三つの入金パターンと今月の支払い計画を照らし合わせて現金残高に不足を起こさないような開発計画にする。それが開発会議の重要なテーマになるのだ。
「安易な運転資金借入は倒産あるのみ。万難を排して阻止せよ」と社長から厳命されているので、お金が足りなければ借りればよい、という選択肢はない。納品を早めるか、受注を促進するしか対策はないのだ。
この方法にしてから数年経過したが、いままで 2度だけどうにもならず「社長、現金が○○○万円不足します。調達していただけませんか」と言われたことがあったそうだ。その時に社長は、「え~ッ!」と大げさに驚き、深刻な問題が起きたかのように困ってみせたという。
会議の内容が気にならないですか、と私が尋ねると、びっくり仰天するような答えが返ってきた。社員が知ったらびっくりするかもしれない。
「テニスかジムで汗を流してます。時には寿司屋で飲んでます」
翌朝、開発課長からメールで会議報告がされる。本文だけ読むが、添付ファイルの資料は一度も開いたことがないという。「そのうち、メール報告もいらん」と言うつもりです、と笑っていた。ここまで安心して任せられるようになるまでは時間がかかったと思うが、社長として大いに挑戦するに値するのがこうした「心配のおすそ分け」システムだと思う。
このシリーズ、ひとまず終了。